Kuma
クマちゃんからの便り

移動のひと時


オレには関係ないコトだが、
暑い連休も今日でお仕舞だ。
アズサにて下る。下りのグリーン車両は、
オレ独りの貸切状態だった。
「ケイタイ電話の使用は、
 他のお客さんの迷惑ですので、
 デッキにてお願いします」
いつもの車内放送だ。
オレはもちろんマナーモード。

すっかり老眼も進んで
電車での読書は眉間が疲れるようになった。
濃くなった緑を眺めていたら、
思わず尺八を出して<月の砂漠>を吹いていたのだ。
夢中になって吹いていて、
突拍子もない音になっちまったところで、
「演奏の途中ですが、切符よろしいでしょうか」
検札に来た車掌はしばらく後ろで待機していたようだった。
「ア、今デッキに出ようと思っていたんだ、悪りいね」
とっさにデタラメが口を点いて出た。
「なかなかで…」
嫌味なく微笑むJRの車掌も、
ついにお愛想を言うサーヴィスも始めたか。
それにしてもヘボ音が恥ずかしかった。
マ、イイか。



オレの尺八は、法具であり、
気の調整具であり、
ヒカリを音に変換する装置であるのだ。
今は、<月の砂漠>をオレなりに
気分よく吹くことに専念している。

山梨FACTORYに着いた五時過ぎは涼しかった。
FACTORYのオレの巣には窓が一個しかない。
何とか、大武川に面した壁に孔を開けて出窓を取り付け、
<気>の流れを良くする事にした。

バリ島から戻ったらすぐに、
MILANOへのラストスパートである。
<気>の流れだけでもイイ状態にしとかなくちゃナ。

KILNの下降温度156℃。
竹の王国バリ島にもこの<地無し尺八>を帯同する。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2001-07-24-TUE

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