Kuma
クマちゃんからの便り

熱いアジャパー




朝六時には眼を覚まし雑草をむしる。
黒砂糖を齧って茶を飲む。
もう気温は上昇、FACTORYが外壁から熱くなってきた。
これはイカン、
まだ冷えている床に敷いたゴザに横になり身体を冷やす。
「暑いよぉ、暑いよぉ」
村のビンボー芸術家スガワラ君が助けを求めている。
暑いのはオレも同じだ。
「アッまだ眠ってましたか」
目の前に汗だくのスガワラ君が突っ立ていた。
今日は十時から手伝いに来る約束だったのだ。
オレは眠っていたようだ。
「さっきから声をかけていたけど出ないから上がって、
 また声を掛けたけどダメでした」
オレの左鼓膜はすでに無いから、
左を下にして眠ってしまうと世界は消滅したように、
全ての音が遮断出来るのである。
「そういえば左が下になってました」
「悪い悪い…あんまり暑いから消耗を防ごうと
 横になったら眠ってしまったんだ」
「外は暑いです、ダメです今日も。」
「陽が傾くまでシゴトはやめよう、
 死んでしま うゾ。弁当は何か」
「今日は自分で焼いたドイツ風のパンです」
オレの米びつは昨夜炊いたので最後だった。
スーパーで買ったウナギにちょっと酒をかけてレンジ。
ふっくらしたうな丼にすると、
そこらのウナギ屋と大差なかった。
メシは一人分は残っていた。
「イイね、うな丼と交換しようや」
ウナギと聞いてスガワラ君の眼が輝いた。
「イイんですか」
「オレはパンを喰いたいんだ、朝げの味噌汁付だよ」
ビンボーの物々交換経済が成立した。
明日も暑そうだから、外に日陰を作ることにして
午後からボロトラックで町に買物。
ロープやビニールシート、烏脅し、テッシュなど買う。
シャッターの下にシートの片側をくくり付け
もう片方にはロープだ。
シャッターを上げ、上空に持ち上がったシートで
大きな日陰が出来た。
明日はこの下 でシゴトが出来たらイイのだが。
こんな地べたでの仕事でオレは人生の大半を過ごしてきた。
しかし、木っ端役人のキャリアどもと違うのは、
ヤツ等は憶測でしか人生を知らないと言うことだ。
構造改革とやらは、
ヤツ等の頭蓋内を組替えてやることだろうナ。

屋上のポールに烏脅しを掲揚した。
暑いのに烏の声は暑苦しいからである。
夜はハイボールで一杯だけ呑って写真に悪戯して遊ぶ。
あまりの暑さで頭がアジャパーになってきた。
アジャパー状態のまま明後日にはペナン島に渡って、
アジアの異才建築家と小屋の建築合戦だ。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-07-26-THU

KUMA
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