Kuma
クマちゃんからの便り

南洋通信 その8

今回のBALI島篇は、奥山という女のタレントと合流。
彼女の名前は忘れた。ゴメン。
BARIの伝統建築と西洋をミックスした
リゾートのランドスケープを手掛ける
オーストラリア人MR.MADEのレポートしながら、
<快適とは何か>というアジア探訪らしい。

しかしオレは、短いジカンに
オレの快適空間を創ろうと思ったのが主眼である。
オレには創るモノがオレのコトバなんだ。
MR.MADEはマレーシアで会った
過激な建築家のジミィーとは違って、
ヒトを使ってリゾートを作る
ラウンドスケープのプロデュサー的な人間だとにらんだ。
自分では直接手を下さないのである。
それは個人の方法だからどうだってイイことだ。
オレはたった一日で出来る
オレのランドスケープを創りたいだけだ。
ヤロウはどうもオレを
単なるレポーターと履違えているようだから、
オレの作品集をプレゼントしてやった。
ページをめくるたび驚いているようだった。
その後は急に態度が変ったのが微笑ましいじゃないか。
『遅いぜ、ベイビー。オレはジャパンでも
 永いことそんな扱いにはなれているんだ』。
 
毎日早朝から暗くなるまで増えるシーンの数、
スケジュールの変更。
どう考えてもこのままだとオレのゲージツ・ジカンは無い。
仕方が無いことだがオレは自衛策に出た。
素材の竹を勝手に注文して、
明日から撮影が終わり次第に制作開始するのだ。



オレの今回のイメージは空中カプセルだ。
二日ぐらいのゲージツで完全徹夜の集中はまだいける。
頭蓋のイメージに集中すること自体が、
オレの<快適>なのだ。
モンゴルでも、サハラ砂漠でも、
ダラムサラでもそうしてきたし、
これからもそうした己の身体を使った
アナログな古いタイプのゲージツ家なのだろう。
暮らす器としての<快適>なぞは束の間で充分である。
今朝迎えた王宮のヒカリ。
あれもすでに遠いメモリーになってしまった。
BALI島のヒカリを浴びながら、
ミラノでの<極東からのヒカリ>展のコトでいっぱいの頭蓋。
荒行のようなBALIジカンもあと数日だ。
オレが<サブ>とあだ名したドライバーが、
フロントガラスをしきりに跳ね回るハエを、
ゴツイ指でソオッと羽根を摘んで窓の外に放した。
優しいBALI人の仕草にホッとした。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-08-10-FRI

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