Kuma
クマちゃんからの便り

南洋通信 その11

夜、カメラやデレクター等と呑んだ。
オレはアラックという米の酒を呑んだ。
ゆっくり頭蓋にしみ込んでいった。
ビール以外の酒は何でも呑む。強い酒を強く呑むのだ。
このごろは発泡酒なる液が流行って、
ビールを凌ぐ勢いらしい。
オレは若いころから、
御天道さんがあるうちは絶対に酒を口にしなかった。
最近のテレビ・クルーは昼飯の時、
まだ撮影があっても外人のようにビールをまず呑むようだ。
オレはお茶か水である。
「ニッポン人も来るのか」
「イヤ、まだ秘密にしている」。
「環境問題的にもそれはイイことだ」と言ったら、
マディがバカ笑いした。
彼の最近の自信作らしいゆったりしたコテージ。
悪くないが、
オレはやっぱりこんなリゾートとやらの施設には
興味はない種類の生き物なんだろう。
「お前は他人のリフレッシュのために
 ランドマークを忙しく造っているが、
 自分の<くつろぎ>はどうしているんだ」
「俺は仕事が好きだから、わざわざ休みたいと思っていない」
「オレもそうだ。オレはゲージツに集中していること自体が、
 せめて明日まで生きる力なんだ。
 だから、オレも休むことは嫌いだ。
 死んでからゆっくり眠るんだ」
「俺のファクトリーで突然石を削り始めて
 夜中までやっていたのを見て、羨ましく思った」
椰子酒がゆっくり頭蓋にしみ込んでいった。眠った。

今日も朝から忙しく撮影が続いた。
オレは合い間にライスフィールドに眼を飛ばして、
<くつろぎ>のポイントを探していた。
スケッチブックを見せ、
TAROとあだ名したバリ人コーデネーターにも
探させている。
当り前だが、田圃の主に許可を貰わなくてはいけないから
厄介である。



ロケバスにケイタイが入った。
「アグン山も見えて
 KUMAさんのスケッチにぴったりな場所が見つかった」
TAROだ。
女のタレントがニッポンに帰った。お疲れさん。
オレは明日いよいよ<くつろぎ>を創るのだ。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-08-14-TUE

KUMA
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