クマちゃんからの便り |
豊作 先日の二十一号台風はオレを避けて消えた。 豊作が決定的になってはいるが、 「武川米は今が一番水との駆け引きが重要なんだよ」と 村の百姓Sが言った。 心待ちにしていたオレは、 台風に肩透かしを喰らってしまったが、 米には絶好の水分だったようで、 もう間もなく豊作新米の刈入れだ。 刈入れが終われば、 FACTORY近辺のアカマツも葉を落とし途端に、 来年の田植えが終わる五月初めまで ショーユ色の寂しい景色になってしまうのである。 今、巨大サイバー・KILNで ヒカリを創っているのだが、 オレは火炎が好きで、鉄もそうして溶かしてきた。 しかしヒカリは少し性悪オンナのように厄介だから、 電気の熱量でコントロールして きたのだが、 やっぱり火炎の力での溶解が恋しくなる。 登り窯で久しぶりに直接的で容易な土と遊んだ。 オレのゲージツは茶碗や壺なぞ<用の工芸>と違って 百二十kgの土を相手に土の限界にせまる 大きオブジェを創るのである。 九月中にそんなオブジェを六個創る予定だから、 今から五〇〇kgのザラザラの耐火土を確保した。 巨大な土のオブジェを乾燥させるには、 これからの湿気の少ない季節はオレの速度の味方になる。 オブジェに化粧土の黒と土を施し 登り窯で一二〇〇℃で焼き占めた土塊を、 サイバー・KILNに入れて KUMABLUEを鋳込むのである。 土塊の中での蒼いヒカリは、 ひび割れて幾つもの屈折を生むのだ。 土は今までとは違う新しい力をオレに与えたから、 ショーユ色に変っていく景色の中 で、 数百キロの土を千切り、削り、叩き、穿ち、切り裂き、 捏ね上げ、暑苦しく過ぎてい くはずだ。 今年の暮れには土とヒカリの融合が生まれるだろう。 ますます低迷の気配。酒場からも遠ざかり、 激しい山ごもりのゲージツの季節だ。 『蔓草のコクピット』 (つるくさのこくぴっと) 篠原勝之著 文芸春秋刊 定価 本体1619円+税 ISBN4-16-320130-0 クマさんの書き下ろし小説集です。 表題作「蔓草のコクピット」ほか 「セントー的ヨクジョー絵画」 「トタンの又三郎」など8編収録。 カバー絵は、クマさん画の 状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。 |
2001-08-29-WED
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