Kuma
クマちゃんからの便り

秋の深まりとともに・・・・・

ミラノからFAX。
来年の個展がいよいよ具体的になってきた。
ジノ・マッジョがオーナーである有名な
<FONDAZIONE MUDIMA>が会場らしい。
ミラノでは今、キューレーターのドミニク・ステラや
ジノ・マッジョやフランス文化省のクリスチャン、
PR担当のエルマーノ、
何よりもオレのイタリアでのスーパー秘書
IZUMIさんたちが、忙しいそれぞれの時間のなか、
オレの<極東からのヒカリ>のために動き出していると言う。
アリガタイことである。
最終打ち合わせのために、
オレも十月になったらすぐミラノに向かう。
契約を済ませてすぐに戻り、
年内はひたすらヒカリや土と
ゲージツ・ジカンを過ごすコトになるんだろう。



はっきりしない秋雨の中で研磨作業。
虫も鳴かない深まった秋の休憩はストレッチ運動だ。
少し油が切れてきた身体を元通りとはいかないが、
修理しながらゲージツに従事させるのである。
チキショーめ、痛ぇ。
それでも気持ちよくまた研磨続行だ。
デッカイから今日は150番、300番までで終了。

アカマツ林で発見した食用のキノコ七個を、
村人に貰った栗と炊き込みご飯にした。
水で戻した乾燥イモガラ入りの野菜スープで晩メシ。
テレビを点けるとジャパンのニュースショウでは、
アメリカの同時多発テロ特集。
CGで<講釈師、見てきたような>ヴァーチャル映像を
盛んに流している。そしてどの局も御約束の、
航空評論家とか軍事アナリストなる
怪しいヒトらが登場している。
「あの速度で的確に激突するには相当の技術だ」やら
「コンピューターの自動飛行だから素人でも出来る」とか、
ふやけた謎の微笑さえ浮べての解説である。
ウンザリだぜ、そんな講釈。
ABC放送やCNNにチャンネルを変える。
献血に長蛇の列。
続々と駆けつけるボランティアも加わっての救助作業。
新しい生存者は無し。
炊き出し。
遺体袋は数万に増量しているが、発掘も思わしくなく、
ほとんどはまだ空だという。
涙にくれて写真をあちこちに貼り
行方不明の身内を探すヒトたち。
このシーンはベトナムでも湾岸戦争でも、
戦の当事国では同じだったはずだ。
ワシントンの教会での追悼式。
「愛はどんな憎しみより強い」と祈りながら、
<これは二十一世紀の新しい戦争だ>
と宣言する大統領のコトバと、
有事になると星条旗の下に団結するアメリカ。
報復の誓いを国民に演説する大統領の声が、
聞きにくい同時通訳が流れていた。
また新しい戦の方法が発明されたと言うのか。
亡くなったヒトらに<嘘鈴>を吹き合掌。
今、山の中のオレはこれしか出来ない。
しかし、蒼いオレのヒカリを求めることは
オレが終わるまで続く。
まだ見たこともない大きなKUMABLUEのヒカリ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-09-20-THU

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