Kuma
クマちゃんからの便り

めで鯛

ジャパンに戻っても来年のミラノ個展へ向けての計画や、
これから創る新しい鉄の作品のアイデアで
頭蓋内はいっぱいだ。
極東から地球半周してヨーロッパへのトン単位の輸送は
なかなか大変だし、
ゼニの算段も大切なゲージツ・シゴトである。
テロ撲滅の名のもとに
ジャパンも参戦の意志を固めたようだが、
どんな時も美しいモノを創り続けるのが
ゲージツ家というモノだ。
しかし、イタリアでの交渉ゴトで少し疲れた頭蓋から
ゲージツを束の間忘れて、
ジタバタせずにクールダウンすることが一番だ。

今年は日照りの水不足で渓流の都合と、
行くタイミングを失ったオレのスケジュールが合わないまま
すでに禁漁期間に入ってしまった。
マ、ゲージツがますます激しくなってきたし、
岩を登ったり崖をよじ登ったりして
イワナやヤマメを求めて釣り上がるのも
段々面倒にもなってきたのもあって、
川釣りに行かなくなっていたのだ。

漁船で海を漂いノンビリ釣りをするのはイイが、
土日や休日は、腕自慢たちの<釣りたい>欲望と
貧乏臭い気配で渦巻いた遊漁船はウンザリである。
久々にカワハギ釣りでもしようと思って房総半島の突先、
安房の行き止まりにある布良港。
しばらく来ないうちに、隠居したオヤジに替わって
セガレが<仁平丸>の船長になっていた。
無口だが海の上で信頼出来る男だ。
「今年は水温が高いのか、カワハギの数がまだ出てないけど、
 マダイでもやってみるかい。道具は俺の貸すから」。
『自分で釣った鯛で、MUDIMA決定を祝うのもイイか』

他に釣り客はいない。
若船長から丁寧な手ほどきを受けた一投目、
まだ五時半の薄暗い海にググーンと硬い竿が引き込まれ、
糸が張った。緊迫の一瞬だ。
マダイの強い引きをドラッグでやりとりしながら
落着いて取り込んだ。美しい色だった。
すぐにコマセ篭にオキアミを詰め、
ハリスに新しいエビを着けて投入する。
また、タイトライン! だ。
段々大きなサイズになって午前中だけで五枚。
一番大きいのが1.5kg、喰って美味いサイズだが、
オレが喰うのは手ごろなサイズのが一枚あればイイ。
残りは友人たちに送った。
昼からカワハギをやってみたがやっぱり喰いが悪い。
ガラの好物だから10枚ほど釣った。



船宿のコタツからケイタイ電話でH/Pの更新。
波の音が心地イイ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-11-01-THU

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