ゲージツの隙間、新宿浮遊
HELLO! I am KUMA!
1970年代初頭新宿の巷ではみんなが、
もてあました過剰な体力を身悶えしながら、
自分の居場所を少しづつ押し広げようとしていた。
まだまだ三十少し越えたばかりのオレもやっぱり、
そんな気配の中でゲージツしていた。
右翼も左翼もノンポリも一緒くたに呑んでた
五目炒めの新宿だった。
ゴールデン街の入口で別れの相撲で
オレを下手投げで石畳に転がした革命男は,
翌日ジャパンから姿を消して、白髪になって今また、
三十数年ぶりにジャパンに帰っ てきた。
新宿に大勢の懐かしい面々が集った。
久しぶりに、画家・合田佐和子に会った。
相変わらず美しい。
舞踏家・中島夏、相変わらずたおやかだ。
映画監督・若松孝二、鈴木 清順、
漫画家・赤塚 不二夫、林 静一。
その他、当時、 新宿で擦れ違った懐かしい面々。
あれから益々、寒天状になってしまった
ジダイの空気の中でもまだ、
みんなしたたかな現役で生きていた。
乾杯の音頭の前に小便をしたいと言う赤塚不二夫さんが、
「肩を貸してくれ」と言う。
酒で癌を飛ばして生還した天才を
詰らぬ転倒で失ってはイケナイ!
生存をギャグにさえする
天才の小便の音は荘厳だっ たゼ。
根津甚八、大久保鷹、
カマル社社主・桑原、静一、等と
NADJYAに流れて
<HABANA CLUB>を海賊のように呑んだ。
みんな相変わらず元気だから
「もう帰ろう」と言い出さない朝五時少し前、
「もう、イイ加減にしようゼ」
年長になってしまったオレが今宵の終了を宣言した。
オレも大人になったものだわい。
帰り際、
「なかなかフライフィッシングを一緒できないね」
と渋めの二枚目の根津が言う。
「お前がフライにこだわるからイケナイんだ。
今度、カワハギ釣りに行こうゼ。
和竿 のイイやつやるから」
「ヨシッ」
またいつか何処かでナ…。
夜明け前、みんなそれぞれの方向に消えた。
昼過ぎ、戦闘機で守られた
大統領の始球式のゲームを眺めた。
二十一年と三ヶ月をまだ生きている
オレの黒猫GARAの
歯槽膿漏の膿を治療してやってから、
都現代美術館の<村上 隆>の個展を観に行った。
美術の世界制覇戦略!ガンバレ、タコ社長ムラカミ。
ピンバッチ一個買った。
その足で甲府に向かい、
<風と水のためオブジェ>の最終打ち合せ。
危うく寝過ごしそうになった。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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