Kuma
クマちゃんからの便り

儀式


HELLO! I am KUMA!

<八方窯>のわきに奉ってある
故・池田満寿夫氏の遺影に線香をあげた。
彼が遺した 巨大<八方窯>を
一年ぶりに焚かせてもらうことにした。
やっと乾燥した、夏の間に <増穂登り窯>に篭もって
創った400kgはある土のオブジェ四個と、
その他小さな多数の作品を窯詰めする。
久しぶりに会った時、
ますます美しく大人のオンナになっていた宮沢りえは、
モスクワ映画祭主演女優を受賞した直後だった。
「おめでとう。
 KUMABLUEと融合した
 土のトロフィーをプレゼントしようじゃないか」。
彼女と約束した土のオブジェ・トロフィーも
イイ乾燥している。
年内に贈ってやれるわい。

窯主の太田氏と窯詰めの準備をしていたら、
麓から、若い僧侶が上がってきた。
続いて笙の奏者・二郎がベースと
ドラムスのバンドを率いてやってきた。
鉄工が来た。
長野から石の彫刻家がやってきた。
それぞれ面識のうすい面々だが
打ち合せなしにフワフワとやってきたのだった。
オレはみんなとは初対面だ。
「笛吹きさん、今から、
 この土のオブジェに
 オレが黒や白の化粧土でアクションするから、
 傍で何かやってくらないかナ」
「面白いですね。いきましょう」
笛吹きはノリがよかった。
オレはモダーンな笙のサウンドにのってアクションした。



十二月一、二日から<八方窯>の中、
1250℃の薪での火炎の中に旅立つ
土のオブジェへの儀式は、
山岳の窯の前で突然 はじまったのだ。
最近姿を隠していた富士山さえも全身現わしていた。
旅立ちの儀式が終わったオブジェの台に
鉄パイプを差し込んで、
みんなを結集させて<八方窯>の中まで
人海戦術で運び込む。
本焚きには常時五人交代で三チーム必要だという。
焼き上がったオブジェを
オレのFACTORYに運び込んで
KUMABLUEを鋳込むまでまだまだ、先は永い。
彼等にはまた本焚きの時、再会することになるだろう。
日が山に落ちた途端に冷え込 む山岳窯で
ショーチューを呑んだ。
ミラノの造船所に一ヶ月ほど滞在して作品を創る…か。
ミラノまでを夢想しながら…。
地元民のF氏邸に寝泊りしながら、
ランドマークの<風のカカシ>の制作打ち合せに
出掛けた。

留守のF氏邸に太田氏はじめ、
<登り窯>のスタッフ春ちゃん、
コグマ君を招いて湯 豆腐でお疲れエン会。
シゴトから戻ってきた主の氏も合流して
真夜中の大エン会になった。
燃費の喰うゲージツを人生に選んでしまった自分を
サポートするオレは、
コツコツとゼニ・シゴトの営業もこなしながら
今日も漂う。

長野方面行きの汽車に乗る。夜、明科駅。
タクシーにて山奥の生坂村。
<やまなみ荘。 明日朝からBS収録だ。
こんな山奥のテレビにカブール陥落のテレビ映像。
しかし、この争そいもまだまだ先 は不透明である。
<豊かな田舎暮らし>を求めるヒトが流行りだという。
生きて死ぬ人生にどんな意味をもつ
<豊かさ>なのだろう。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-11-19-MON

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