クマちゃんからの便り |
不測の事態 増穂のぼり窯の太田氏より緊急電話。 「冷ました窯のレンガを開けたところヒビが入ってました。 でも焼きは最高の上がりです」 何だか要領の得ない内容だった。 「なに言ってるんだ。割れてては意味がない。 もういい、これからアズサですぐにそっちへ行く」 何度も言っているが、オレには焼き物を嗜む教養も 陶芸の趣味もない。 圧倒的なヒカリを鋳込むための土の器を焼きに 増穂にこの半年ちかく通ったのではないか。 不測の事態を何度も潜り抜けてきたが、 「割れた」というコトバにオレの頭蓋の中には 対処法があれこれ駆け巡っていた。 幾通りかの解決法を用意して、錦糸町の釣具屋に寄って DAIWAの電動リール<SEABORG300>と チヌ鉤と3号ラインも買ってアズサに乗っり山に向かった。 こんな時の二時間はもどかしい。 空いているグリーン車の二人席で、 マダイの仕掛けを作ったり、 通路に置いたカバンにリールの糸先を結んで巻き取っては 海に遊んでいた。 不測の事態を潜り抜けるには、 牧歌的に考え込んではイケナイ。 手を動かしている間に、考え抜いてしまうのだ。 暗い山路のツヅレ折り。 真っ暗い八方窯の口がポッカリ開いていた。 電灯で照らすと 見事なヒビが走っていた。 すぐにでも引っ張り出して FACTORYに持ち帰りたいと思った。 窯主の太田氏はいろいろ原因を解説していたが、 オレは過ぎ去った事はどうだって良かった。 これから次の段階にどう対処するかが重大なのだ。 修復出来ると確信した。 アズサで予想していた対処法で何とかなるわい。 窯出し前に駆けつけてよかった。 『蔓草のコクピット』 (つるくさのこくぴっと) 篠原勝之著 文芸春秋刊 定価 本体1619円+税 ISBN4-16-320130-0 クマさんの書き下ろし小説集です。 表題作「蔓草のコクピット」ほか 「セントー的ヨクジョー絵画」 「トタンの又三郎」など8編収録。 カバー絵は、クマさん画の 状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。 |
2001-12-11-TUE
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