Kuma
クマちゃんからの便り

次なる不測へ


プロ並みのカメラを首からさげて土日になると、
ただひたすら富士山を写し続けて彷徨う
不思議な老人達がいる。
のぼり窯のある櫛形山のてっ辺は、
彼等にとって最高のヴューポイントらしく、
撮影帰りに立ち寄っては
オレのゲージツ・アクションを眺めて行く一団があった。
いよいよ八方窯からオブジェを出す朝、
オレも早めに登っていった。
オレの炎で一緒に焼いた参加者の茶器などの焼き物が
続々出てきた。
どれもイイ焼き加減だったらしく、
窯前で自分のやきものに満足顔で見入っている、
結構なコトだった。
みんなで運び出してくれたオレのオブジェを、
自分で修復していた。
その様子を取り巻いて見学していた
不思議な老人達のオシャベリに手先の器用さを直感した。
建設会社の建材専門、家具職人、塗装屋などらしい。
「クッチャべる体力にオレを手伝う勇気が残っているのか」
「えっ、いいのかい」
束の間の助手にしたこの爺ィたちにオレの修復方法を伝えた。
割れた部分に耐火煉瓦を
収縮の少ない粘土で圧着していくのだ。
丁寧で手際がイイじゃないか。
途中で逃げ出せないように、杖をオレが預かった。
オレの眼に間違いはなく一時間ほどで完了した。
富士に人生を捧げる不思議な老人達には
不思議なほど確実なワザも残っていた。
いっときも早く土の器をFACTORYに
連れて帰りたかった。
「サイナラ・・・」
チャーターしてあったトラックで
オブジェを武川村のFACTORYに運ぶ。
水銀灯で照らされたヒカリの器が、
FACTORYの空気で活き活きして見えた。
翌朝から、500kgのKUMABLUEを詰め込んだ。
みんなが帰って独り転寝していたら
OMRONのKUMAチーム、
今村氏と李君が来た。
これからミラノに向かうヒカリを創る
サイバーKILNへのアイデアでショーチュー、
久しぶりに燃焼や溶解の実質温度についてテーマがおよぶと
頭蓋が甦る。



OMRONのチームのアドヴァイスで、
兼ねがね考えていたセンサーを作ることにした。
オレは土の表面を焼くのではなく、
溶解して無垢のヒカリを創るのだ。


『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-12-12-WED

KUMA
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