Kuma
クマちゃんからの便り

冬の雨に漂う

師走にきて乾燥し薄ら寒い青空は、
ヒトの気分までパサパサにするらしく、
台所用品から、果てしない戦の重火器まで
オブジェが殺しの道具となって飛び交う。
末法の世の年末である。
久々に雨の東京に戻ったオレは、隅田川を越え、
江戸川も越えて土手っぷちにある<タナカ製作所>へ。
緊張感のないヘナチョコの助手どもを
全員お払い箱にしたオレのFACTORYは、
すっかりヒカリを創りだすシフトに変えてしまってから、
だいぶん時間が経った。
ヒカリへのアクションは独りだが、
必要になればプロの職人を呼んで
何日か一緒にシゴトをするようになり、
終わると彼等はまた風のように去っていく。
「ガラスに変って、もう鉄のゲージツはやめたのか」
と間の抜けた質問を受けることがあるが、
ジョーダンじゃない!
相変わらず鉄は鉄、土は土、ヒカリはヒカリで
存在しているではないか。
鉄をゲージツするときは、
下町にある古い付合いの鉄工所に出掛けて、
腕のイイ職人たちの場所を借りて創る。
牧歌的な癒しなぞを求めない、
オレは浮遊する移動民なのだろう。
今日は川風の吹き抜ける工場で、
大武川の流れのど真ん中に建てる水と風のオブジェ
<水の樹>を制作するためだ。
三次曲面の大きな翼を創った。



ちょっと降った雨水を急な沢から集まり激流になる大武川は、
かって土石流となって村を壊滅にして、
アッと言う間に34人を呑み込んでしまい、
彼等は地下のヒトになった。
その大武川の流れを一時変えて、
年末にオブジェのアンカーを川底に打ち込み、
2002年、明けるとすぐ元に戻す流れの中から
<水の樹>がそびえるという仕掛けである。
十八日始動するサイバー・KILNを
遠隔操作・管理しながら
<ミラノ・スペシャル>のヒカリを創り、
鉄で<水の樹>の完成を目指すのである。
冷たい雨のなか、上州屋に寄って防寒長靴を購入。
時間の隙間にまた冬の海に漂うか。


『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-12-16-SUN

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