Kuma
クマちゃんからの便り

洟垂れ窯番人

半年もジカンをかけて乾燥し焼き締めたものの
巨大なヒカリの土の器が、
工芸窯の焼成で見事に不測の事態に巻き込まれ
亀裂が入っちまったのは、既報の通りだ。

オレが目指すヒカリを焼成するには、
表面のヒイロとか灰かぶりとやらにまだ色目を使っている
工芸の窯ではパワー不足である。
偶然の亀裂をゲージツの味にするほど
オレはヤキが回ってないわい。

しかし、この程度の不測の事態なぞは、
悔しいことだが予測の事態の範疇だ。
過ぎていったヒカリへのジカンを続けるために、
新たな焼成について考えを新たにして亀裂の補修を済ませ、
センサーまで開発して大幅に遅れながらも
スイッチをスタートさせた。
サイバー・KILNのヒカリの焼成は今日も順調だ。
ピークをホールドして三日目だ。
今回開発して設置したセンサーの数値を見ながら、
鼻水を流して500℃に急冷するタイミングを図っていた。

そろそろ、アドバンスを掛けようと思った午後一時半、
OMRON岡山に戻り、
遠隔でチェックしていた李君からの携帯電話。
「そろそろいきましょうか」
「オレもそう思っていたところだ」
「こっちのパソコンから五分後にステップを進めます」
「そうしてくれ、オレは準備OKだぞ」
ぴったり五分後温度が下がり出した。
KILNの八個ある天蓋を、
センサー温度を見ながら順繰り開け閉めして急伶を促す。
工芸窯が作った亀裂から溶融したヒカリが漏れないよう、
ここはサイバーとオレのアナログなワザの見せ所である。
熱でふらつくオレを包んでくれているのは、今年三月、
オーロラを見に行ったついでに立寄ったケベックの
アザラシ漁師が出入りする店で手に入れたものだ。

ついでだが、JALの機内誌<WINGS>一月号に、
その時のエッセイと写真が掲載される。
機会があったらどうぞ。





『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-12-31-MON

KUMA
戻る