Kuma
クマちゃんからの便り

忙中釣行

TOTO工場で提案した陶壁
<NANO BLUE CITY>へ
色々提案したオレのわがままを、
二十六日のアクションに向けて
博士軍団が忙しく準備をしているのだろう。

オレは明太子と塩大福を買って一旦、東京へ。
MILANOへのOBJE制作の材料収集やテレビ収録、
OGINO氏との打合せ、特注イカ竿のチェック等、
タイトなスケジュールのなかに
根津甚八とのカワハギ釣りを予定に組んでいた。

前日になって彼から、
三浦半島は強烈な南風で中止になったとの携帯メール。
お互い やっと入れた時間だったのに、
自然には逆らえない。
しかし、そんな大人気(おとなげ)は
オレにはないから我慢ならない。
独りでも海に出たいのである。
東京湾内なら風を少しは避けられるだろうと
あっちこっち探して、<シロギス>釣りに変更した。
小岩のたかはし丸で出港して一時間四十分。
金沢八景沖。
釣客は建築家のケンドーこと本多とオレだけ。
快晴だけどやっぱり風があり、少々うねっていた。
初めてシロギス釣りを、カワハギ竿で対応していたが
小さな魚信がなかなか掴めず。
目の前が突然グリーンになった。
風上でコンビニ弁当を喰っていたケンドーの
ビニール製の笹の葉が飛んできて
オレの目に張付いたのだった。
「バカタレめ!」
「スミマセン」
慌てるから弁当の蓋や、
黄色いタクアンまで飛んできやがった。
やっとタイミングが取れて調子が出てきた頃、
海は大きくうねりだし竿も左右に振られだした。
「戻りましょう」
若い船頭に従うしかない。
それでも大きなサイズを五十六匹。
すっかり釣りに嵌まりはじめた本多も
ワカサギ・サイズをそこそこ上げていた。

フルスロットルでウネリを切裂きながら戻る船の上で、
陽にかざした掌に春の温度を感じた。
ヒトが作ったNANOという物差しなぞ意識しなくても、
すでにオレ達は極小の現実に囲まれているのだろう。

浅草の行きつけの蕎麦屋に寄って
大将に天麩羅にしてもらい、ショーチューを呑む。
美味いなあ。
打ちたての蕎麦を喰う。美味いなあ。
オレのゲージツはオレが生きてる理由の98%だし、
海に漂う釣りは人生のオカズだ。
オカズもなけりゃ味気ない。
動きながら頭蓋の休息を取るのだ。
デジカメを忘れてしまった。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-01-25-FRI

KUMA
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