Kuma
クマちゃんからの便り

ゲージツ家、呑む、走る

山ごもりでいつの間に腎臓で生成していた石を
一晩で排出して、アズサにて帰京。
巷で独りの快気祝いも寂しいから、
デレクターのナカガワと待ち合わせた六本木OPPは、
漫画大賞を受賞した黒鉄ヒロシの祝賀エン会の真っ最中。
何が目出度いんだかわからないまま、
最初は片隅でショーチュー。
陽水や宮沢リエ嬢まで現れるやオレは全開になった。

やがて殆ど居なくなって
講談社の山チャンとシミジミしていた明け方三時過ぎ。
五時半起きで北九州小倉は春だった。
TOTOのシャトル焼成炉から陶板が生還するのだ。



正月明け2002年を寿いで、
便所から持ち出したモップに釉薬を浸して
ペインティングした
1メートル四方の板50枚の総重量は1.5トンだ。
アクションの軌跡が美しく鮮やかに浮き上がっていた。
モップは洗って返したのだが、
ゲージツ家は後でオバサンに叱られた。



ゲージツが燃焼するとき近辺には迷惑する者も出る。
仕方がない。
オレからのお返しは美しい出来事だ。
膨張係数を小さくして土と融合させるために、
アルカリを含まないガラスを
TOTOの林博士に焼成してもらった。
生還したばかりの陶板に、
これを施して二次焼成で溶け込ませ
画面にヒカリを捕えるようにする。
彼の研究棟に案内された。
ヒカリのイメージについて語合う。



水を小さな装置で分解した水素と酸素を混合した
バーナーの燃焼は2000℃。
KILNのピーク時を監視するCCD装置。
ゲージツ家はフォルムだけに拘らない。
捕えた大きな光で美しく自光する
ヒカリのカタマリを創り出すのだ。
そんなヒカリの装置である。



MILANOへ行くオブジェ群にまだそのヒカリは
まだまだ間に合わないが、
オレのスタイルは往けるところまで往ってみることである。
魔物のような痛みと闘った結石排出のあと、
九州でヒカリを求めて林博士と呑んだ
芋ショーチューのテンションは、
オレのヒカリへの方向へと加速させて美味かったわい。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-03-07-THU

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