啓蟄
障子の破れ目から射し込んだヒカリが風に揺らいで、
部屋の何処かで冬を越したテントウムシが、
都合よくヒカリの壁を横切った。
窓の外は解禁になった大武川。
陽を浴びた白い岩陰で、
釣り人がウェダーを下ろして立小便をしている。
のどかな春の景色だ。
冬の終わり近くには樹に白い花が咲く。
今、白い梅が盛りだ。
間もなくハナミズキが咲き、ヤマフジの淡い紫。
黄色くヤマブキがにぎやかになる頃は、
ヤマメが釣れだすんだと教えてくれた釣りの老師匠は、
去年、交通事故で死んだ。
暦では<啓蟄>。その事を誰に教わるでもなく、
ヒカリの中をテントウムシが歩いていたのだ。
季節に関係なく動き続け山ごもりの蟄居。
オレの啓蟄は、次なる圧倒的なヒカリに向けて再始動した。
広大なライスフィールドの中に
風に反応するKAKASHIを創るためにロケハン。
田植えが終わった老夫婦が、
富士山を遠くに眺めながら弁当を喰ったり、
くつろいだり出来る場所になればイイ。
FACTORYの中はミラノ行きの鉄のOBJEやら
KUMABLUEのヒカリで隙間が無くなってしまった。
近々届くTOTOで創った新作を置く場所を確保してから、
収録のために東京に戻る。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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