接近戦
アンティプリマのオーナーデザイナーIZUMIさんと
フランスのキュレーターDOMINIQUEは、
FACTORYがチャーターした建ちゃんのロケバスに乗って、
山梨FACTORYにやって来た。
あれから半年振りの再会だった。
![](IMAGES/020315-DSCF16.jpg)
オレが取り組んでいる圧倒的な無垢のヒカリの
イタリアでの個展を企てたオレは、
稼いだゼニと重い作品集を抱えて
去年5月ヴェネチアに乗り込んだ。
しかし、伝統的な宙吹きガラスの工芸ばかりのムラーノには、
オレが求めているヒカリはなかった。
ゼニも底をつき、ミラノコレクションの準備で忙しい
アンティプリマ・オーナーデザイナーのIZUMIさんに
助けを求め、何とか電車に乗ってミラノのKOMO湖に訪ねた。
「あなたのゲージツは古いヴェニスには似合わない、
ミラノでするべきよ」
彼女は、優秀なキュレーターDOMINIQUEや
フランス文化局のクリスチャンを紹介してくれた。
オレのエナジーは好評だった。
10月に再度ミラノを訪れた。
MUDIMA美術館の館長ジノ・ディ・マッジョが
「激しいエネルギーとMADな君を楽しみにしてる」
と、開催と基金を許可したのだった。
「創るのはアンタの自由だ、しかし撰ぶのは私たちだ」
ジノとドミニクが強い声で言った。
鉄の鋳造OBJEにも関心があると言う。
ジオは2日遅れで山梨FACTORYに到着するらしい。
いつもは穏やかなインテリのドミニクは、
FACTORYに入った途端キュレーターの厳しい眼になった。
軽はずみに褒めコトバを吐いたりはせず
一個づつ丁寧に見ている。
オレはタバコをのみながら様子を眺めていた。
無垢の鉄からヒカリへオレは変化してきたが、
オレのOBJEをこんなに一生懸命見詰てくれたヒトは
いなかった。
![](IMAGES/020315-DSCF14.jpg)
ドミニクがオレの哲学や人生へクールに質問しながら
メモしていく。
生きてる理由の96.5%である自分のゲージツについて
何時間もしゃべった。
JALの機内誌編集者ジッピー女史を第一通訳、
マネジャー・成瀬は第二通訳。
IZUMIさんが、ドミニクの質問の真意を
日本語でオレに問い直してくれる。
エキサイティングなジカンだった。
ミラノ個展の会期はひと月早まり
ミラノコレクションやベネチア映画祭がある
ベストシーズンの9月から10月までの一ヶ月間に決まった。
明日成田に到着するジノ・ディ・マッジョは
直接FACTORYに観に来る。
OBJE群は30点、総重量10トンになる。
大きくMILANOに向けて動き出した。オレは接近戦に強い。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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