Kuma
クマちゃんからの便り

接近戦

アンティプリマのオーナーデザイナーIZUMIさんと
フランスのキュレーターDOMINIQUEは、
FACTORYがチャーターした建ちゃんのロケバスに乗って、
山梨FACTORYにやって来た。
あれから半年振りの再会だった。



オレが取り組んでいる圧倒的な無垢のヒカリの
イタリアでの個展を企てたオレは、
稼いだゼニと重い作品集を抱えて
去年5月ヴェネチアに乗り込んだ。
しかし、伝統的な宙吹きガラスの工芸ばかりのムラーノには、
オレが求めているヒカリはなかった。
ゼニも底をつき、ミラノコレクションの準備で忙しい
アンティプリマ・オーナーデザイナーのIZUMIさんに
助けを求め、何とか電車に乗ってミラノのKOMO湖に訪ねた。

「あなたのゲージツは古いヴェニスには似合わない、
 ミラノでするべきよ」
彼女は、優秀なキュレーターDOMINIQUEや
フランス文化局のクリスチャンを紹介してくれた。
オレのエナジーは好評だった。
10月に再度ミラノを訪れた。
MUDIMA美術館の館長ジノ・ディ・マッジョが
「激しいエネルギーとMADな君を楽しみにしてる」
と、開催と基金を許可したのだった。
「創るのはアンタの自由だ、しかし撰ぶのは私たちだ」
ジノとドミニクが強い声で言った。
鉄の鋳造OBJEにも関心があると言う。
ジオは2日遅れで山梨FACTORYに到着するらしい。

いつもは穏やかなインテリのドミニクは、
FACTORYに入った途端キュレーターの厳しい眼になった。
軽はずみに褒めコトバを吐いたりはせず
一個づつ丁寧に見ている。
オレはタバコをのみながら様子を眺めていた。
無垢の鉄からヒカリへオレは変化してきたが、
オレのOBJEをこんなに一生懸命見詰てくれたヒトは
いなかった。



ドミニクがオレの哲学や人生へクールに質問しながら
メモしていく。
生きてる理由の96.5%である自分のゲージツについて
何時間もしゃべった。
JALの機内誌編集者ジッピー女史を第一通訳、
マネジャー・成瀬は第二通訳。
IZUMIさんが、ドミニクの質問の真意を
日本語でオレに問い直してくれる。
エキサイティングなジカンだった。
ミラノ個展の会期はひと月早まり
ミラノコレクションやベネチア映画祭がある
ベストシーズンの9月から10月までの一ヶ月間に決まった。

明日成田に到着するジノ・ディ・マッジョは
直接FACTORYに観に来る。
OBJE群は30点、総重量10トンになる。
大きくMILANOに向けて動き出した。オレは接近戦に強い。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-03-15-FRI

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