大壁面
今年の桜前線は例年より早いとテレビでは大騒ぎだ。
山梨の<神代桜>の満開も今週で終わると
タクシーの運転手が言った。
準備もままな らなくて頭を抱えているのは、
花見産業の人々で、早い遅いは自然の都合だ。
TOTOのKILNから五十枚の陶板が無事出てきて、
いよいよ<井筒屋>のエントランスの三階吹き抜けの
大壁面に垂直に張り込まれていく花曇りの小倉に来た。
今日まで四十 枚張り終えたが、あと十枚は明日以降。
完成まで足場は取れないしまだ
目隠しも掛けられたままで全体は見えない。
今年の正月明け早々に乗り込んで水平に並べて
アクション制作したモノを水平にしたまま
TOTOのKILNで焼いたから、
垂直になったモノを観るのは今回初めてである。
オレは足場に登って、
大きな制作室を提供してくれただけでなく、
乱暴に近いアクションで創った
ヒカリのOBJEに面食らいながらも
焼き上げてくれたTOTOの林博士や、
いつも完璧な製品を作っている職工等の
勇気と技術に感謝しながら一枚づつ掌で観ていた。
ネオジュウムと陶板はイイ緊張を保ったまま
オレ狙い通りに、
一枚が全てだし全体が 一個のハーモニーを放っていた。
小倉でアクションしたヒカリを、小倉の窯で焼き、
小倉の場所でヒカリを放つ。イイ流れではないか。
GINOが来日した時オレに
「シシリーには古代方式の窯場もある。
お前もやってみる か」
と言っていたコトバを思いだした。
モンゴルの草原も、サハラ砂漠も、
インドのダラムサラも、降り立った場所を
FACTORYにしてきたオレだ。
小倉の次はシシリー島になればイイ。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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