クマちゃんからの便り

休養日

あの真新しい緑も束の間で、
裏山の雑木は今や濃い葉っぱに覆われている。
このイイ季節をひたすらFACTORYの中で
ゲージツ三昧で過ごしていたオレには関係なく
植物の成長は確実だった。
ところどころに山桜に代わって野生の藤色が目立ち、
水の音にオレの身体から吹きだす風が心地イイ。
久しぶりに川べりに尺八を持ちだして
<嘘鈴>を吹き続けた。
十二メートルのコンテナー二本になる輸送、
大きく重いOBJE群を一点づつ木箱に入れたり、
業者から送られてくる見積書に目眩しながらも、
今更こんなゼニなぞにビビるオレではない。
目眩したままMUDIMA美術館の大壁面空間に想いを馳せる。





カタログ用の作品の撮影も連休明けに迫ってきたが、
マ、ゴールデンウィークといっても
ゲージツ家にはカレンダーの赤い印でしかない。
先日、北野武巨匠から戴き喰いごろになっていた
千疋屋のメロンとサクランボは、
これからも喰う機会もないだろう桐箱入りだった。

五メートル×五メートルのフレームゆっくり眺めていた。
イイ出来だ。
果汁が頭蓋の隅々に広がっていく。
今日は久しぶりに完全休養日にした。
やっと出来上がった二十五枚のフレームが
これからの旅路で酸化していく鉄の音楽を、
コントロールに一工夫するのは明日からの作業である。
加速がついてきたぞ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-05-06-MON

KUMA
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