約束週間
<誰でもピカソ>収録。
ゲストの歌謡界のドン・船村徹さんと控室で
テンカラ鈎などのマニアックな釣り話し。
オレが夜スルメ釣りをした日に、
彼は函館でイカを喰ったと言う。
「船に持ち込んだ、ショーユと味醂と
ショーガで作ったタレに、釣った端からイカを
放り込んで作る<イカの沖漬け>を贈ります」
約束をした。
収録後、デジタル・サイバー野郎の高城剛のポルシェで
美術評論の伊東順二が待つ中華屋。
甕から出した紹興酒はやっぱし美味いわい。
そこにニョショウ二人と登場した宮沢リエ嬢と合流。
ますますイイ女優になってきたリエが、
オレのミラノ個展祝いにヴーヴーグリコを抜いてくれ
嬉しいエン会になった。
「リエのモスクワ映画祭受賞記念に作った
セラミックのオブジェ、
キュレターがミラノに持っていってしまったんだ」
「でもそれは売らないでね」
「オレは目先のゼニに弱いから分からないけど、
そのときはまた新しいの創るさ」
明け方雨のシチーを独り気持ちよく濡れてながら帰った。
アルミニュームをくりぬいたスリットを通過した平行光線が、
離れた場所スクリーンを調整していたオレのティシャツを
照射して煙を出しはじめた。
TOTOの梅本氏がお盆を返上して作ってくれた
強烈な光源が放熱する温度は5000℃。
暴力的な光源である。
牟礼の石切り場で削りだした巨大なプリズムに、
スリットの幅やヒカリの角度を変えながら
闇雲のスペクトル実験を繰り返す。
スリットの隙間を通過した入射光線が、
二次、三次の散乱光になって走り回る天井や壁を、
虹を求めて大判の白紙を広げて
マネージャーの成瀬も走り回るのだが、
なかなか虹が前方に飛ばないし、
スリットや光源を操作するオレの手が焦げるほどに熱い。
こりゃあ、手が足りない。
赤テント役者・クボイに
ピンスポット・ライトを持ってこさせ、
音楽担当のアンボを呼び出し手伝わせる。
演劇用の照明を解体してスリットを組み込み再度実験開始。
少し暗い光源だがなんとかスペクトルが天井に現れた。
何と、FACTORYの窓を飛び出し、
道路を越えて向かいの工場の壁に
大きな虹が架かっているではないか。
オレは思わず鏡の破片で受取った虹を、
夜の下町に乱反射させて遊んだ。
北九州で光源を作り、四国でプリズムを削ったオレは、
とうとう虹を掴まえた勢いで、
ミラノに行ってまたゲージツを掴まえるのだ。
実験の結果、強烈過ぎる梅本ライトは
赤テントの狭い空間には向かなかったが、
今後のオレのヒカリを演出するだろうことが予感できた。
<ウメモト、君のヒカリは無駄にはしないぜ>
近づく台風のなか下町の鉄工場に行き、
<虹の発射砲>を鉄で作る。
ミラノ出発前に、赤テント座長の唐十郎に渡すのだ。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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