クマちゃんからの便り

明日MIRANOへ

野武巨匠が<誰でもピカソ>の六月末の控室で
「ミラノへ行こう」と言った。
一年半前に一人作品集を抱えてヴェネチア、
ミラノに乗り込んだが八方塞り、
数ヶ月後、再度ミラノへ。
ミラノコレクションで活躍している
<アンテプリマ>のマダム・IZUMI、
<フェニックス・グループ>首席・OGINO氏の
サポートもあり、



オレの作品集から、エナジーを読み取ってくれた
フランス文化省のクリスチャン、
キュレーターのドミニク・ステラや
館長のジノ・デマジョ等が、
MUDIMA美術館での個展を決めたのだった。
今までだって、誰一人いないサハラ砂漠やモンゴル草原で
ゲージツをやってきたオレだ。
この一〇年間に創ったモノから十二トンだけを選抜して、
自らヨーロッパに運び込むこと自体が
オレのゲージツの一環である。
ゲージツ映像を個人的に
カメラを回していたディレクターもいたし、
NHKや民放に働きかけてくれたプロデューサーもいた。
やれサッカーだ、それ水泳だ、
メジャーだと盛り沢山の番組に、
ゲージツが入り込む隙はなくて、
ことごとく成立しなかった。
そんな時に、巨匠が
「みんなでミラノに乗り込んで番組にしよう」
との発言だった。
ビンボーなテレビ東京、
制作会社のイーストが無い銭を振り絞って
とうとうミラノ取材が実現することになったのだ。
ヴェネチア映画祭から、
NYに渡り十一日ゼロポイントからの実況を済ませ
その脚でオレのミラノ個展へ。
終ったらまた旅立つというハードスケジュールだ。
そのうち<誰でもピカソ>で
MILANOでのドキュメントを
垣間見ることが出来るだろう。
北野武巨匠に大感謝である。
出発を明日にひかえ、
デジタル・高城からメールで
ホームページのトップページを、
 ミラノバージョンに切り替えました」
と言ってきた。格好イイアニメーションになっていた。
<ありがとう高城、ミラノでひと騒ぎしてくるぜ>。

赤テントの<虹発射砲>がついに完成した。
発射実験するため持ち込んだ新宿NADJAへ、
アングラの若手が受取りに現われた。
店主のアンボが店内の明かりを消した。
スイッチオン!
どうだ、見事なスペクトルが店内を走った。



虹の中でオレたちはショーチューを呑んだ。
一本空き、二本が空いたら、
「やっぱりここでしたか」
小脇に小箱を抱えて文藝春秋の森編集が入ってきた。
「虹の完成、ミラノおめでとうございます」
「これはあとでオレが呑む。今日はこれにしなさい」
オレはCuvee Don Perignonの小箱を
すぐ仕舞った。三本目のショーチューを空ける。
バカ騒ぎで虹発射砲を壊してしまわないうちに、
巨大プリズムと発射砲は別々に持たせ
アングラの若い者らを帰らせた後、
森編集とショーチューをのみながら昨日、書上げ
メールで送った小説がテーマになった。
しかし、何とかここまで辿り着いたワイ。
明日はいよいよミラノだ。
次回からはMIRANOからの便りになる。
喝目して待て。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2002-09-03-TUE

KUMA
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