MILANOに着いた記・・・4
MUDIMAに十時、作業はゆっくり進行していた。
今日は鉄のOBJEを全部吊り揚げ
二階の窓から入れるのだから、彼等も慎重である。
ジャパンでは誰も観ていない最後に創った
<La Campanella>は、
今回のメインデッシュである。
海を航海してきた<La Campanella>の
予想した腐食状態だけでも早く確認したいのだ。
しかし今日の便に乗っているのかは分からないという。
一生懸命やってくれている輸送業者にも、
美術館にも責任はないが、
それをこんな状態にただ待ちぼうけでは気分に悪い。
昨日の学生が、オレのパソコンを弄り、
美術館の回線を調べてくれたが音なしだった。
オレは最後の手段で、前に来たとき回線をお借りした
ANTEPRIMAのエルマンノに電話すると、
打合せが終る二時以降なら
個展の話も聞きたいし是非にいらっしゃいと快い返事だ。
ありがたい。
マネージャーの成瀬と
通訳のジィッピーを伴ってタクシーにて飛ばす。
パソコンを開き繋いでみた。
いい所までいくのだが最後はやっぱりダメだった。
エルマンも何度か試みるもやっぱり同じである。
絶望寸前に彼は
「いいアイデアがある」と言って
別室でなにやらやっていたが、
やがてひらひら紙ぺらを持って現われた。
オレの接続先をJUMPYという
プロバイダに新しく開設してくれたのだ。
エルマンノの込入った話を彼女たちが通訳をしてくれた。
オレのOBJEを是非欲しいと言ってる
彼の知合いのフランス人が、
オープニングに来てくれるという。
彼は、「ちょっと遅い回線かもしれないけど」と繋いだ。
懐かしい回線開通の音がして、
四日間の不通で溜まってしまったメールを
取込むのに時間が掛かった。
彼女等を「アイスクリームでも喰ってきな」
所払いし落ち着いて、
遅れていたホームページを更新した。
慌てていたのか更新の順序が滅茶苦茶になった。
しかし読むヒトが勝手に組合わせて
想像するのもいいだろう。
インターネットは世界を繋ぐようなことを言うが、
まだまだ不便な道具だ。
砂漠や大草原で窮地に立ってもまだ変動した
オレのインスピレーションへ、
柔軟につき合ってくれた遊牧の民のように、
エルマンノを心強く感じたわい。
マニュアルを無視しても今、
何をしたいかを読み取る勇気だ。
ベネチア映画祭のコンペでは北野武巨匠の
<DOLLS>がすでに大評判を呼んでいると
混じっていた、
同行しているイヨリ君からのメールを
地続きのミラノで知ったいいニュースである。
この後NYに渡って十一日
<グラウンド・ゼロ>に立ち生中継を終え、
トンボ返りして来る世界の巨匠にミラノ個展の
<La Campanella>を観て貰えるだけでも、
光栄じゃないか。
MUDIMAに問合せると、
結局<La Campanella>は
月曜日の設置になるらしい。
ミラノにも日本人駐在員がいるというのに
一度だって顔をみせない。
不完全な口利きどもの連絡不徹底が、
誠実なラテン人の仕事さえも遅らせているのである。
しかし、ただ創るばかりではなく
それを携えて国を超えていくというのは、
やっぱりタフに目に見えないモノとさえ
闘えなくてはならないし 、
眼にモノを見せるというのは、
眼に美しいOBJEを
突っ込んでやることなのかもしれない。
北野武巨匠のシゴトもそうなのだろう。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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