クマちゃんからの便り

MILANOに着いた記・・・5

毎日運び込まれてくるOBJEが
一階、二階、三階とMUDIMAのなかに
設置されていく。
今日で何日目になるのかも思い出せなくなっているが、
十二日のオープニング・パー ティーの日は
確実に近づいている。
天井の低いジャパンのデパートで
イヴェント絡みのような個展を
何度か開催したこともあるが、
ゼニばかりとんでいくだけでOBJEには
窮屈で納まりが悪かったこの十年ちかくの
オレのシゴトが、
MUDIMAに来て生き生きとしている。
MILANOに導かれるように
来たような気さえしてきた。
今日からヴァケーションから戻った
キュレターのドミニクも来た。
オレに興味をもった評論家や美術記者が
オレとのインタビューのアポをジャンルカに取る電話が
増えていると言った。

「どっからでもかかって来なさい」

ヴェネチアの映画祭の北野巨匠のパーティに参加した
ムラーノ島の日本人のガラス作家TUCCHYが
オレのオープニングまで滞在して
「何か手伝えることはないか」と訪ねてきた。
その後ロンドン、パリと
美術館にアプローチしに行くのだと言う。
「その時オレの今回のカタログもばら撒いてきてくれよ」
「もちろんそうするつもりです」
相変わらず前向きの青年である。
大方仕上がりに近づいた会場を見て回る。
オレの巨大なヒカリのカタマリを見て
「凄いです。このレベルを
 最初にMUDIMAでやるなんて、
 みんなはデカいスポンサーが附いていると
 思ってしまいますよ。自費ですかぁ」
「勿論だ。オレは世界を知っているが、
 世界はオレを知らんだろう。
 しかしオレは行ける処まで往ってみる
 パッセンジャーなんだ」
「僕等は、去年からサンマルコから見える島を
 ひと月間借り切り、
 世界のガラス巨匠を集めてワークショップを
 開いているんです。
 来年はKUMAさんも講師で来ませんか、
 そこで自分のOBJEを創ればいいんです」
「いい話だな。
 OBJEを極東から運び込むゲージツは
 ゼニが掛かることが分かった。
 前に言ったようなオレの
 サイバー・KILNをこっちに作るか」
「いいですねぇ。少しでも力になりたいです」
箱から出した<V−サークル>の溶接が
一箇所外れていた。



ジャンルカが買ってきた 針金で繋げた。
小雨が振出した夜、
ジノ・デマッジョ夫妻がエン会を開いてくれた。
OGINO氏、IZUMIさん、
ジッピー、ナルセ、ジャンルカ。
シシリーの赤ワイン、何を喰っても美味い。
仕上げは四十五度のグラッパだ。強い酒を強く呑む。
「オープニングの後、
 昼間食べたレストランをエルマノが
 貸切の予約したから、安心しなさい」
OGINOさんがオレに言った。
甘い無花果を美味い生ハムで喰った大きな店だった。
パッセンジャーのスタートは盛り上がってきたぞ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-09-15-SUN

KUMA
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