クマちゃんからの便り

いよいよオープニング当日になった

いよいよ十二日。
今日はMUDIMA個展のオープニングだ。
この三年間、ゼニも体力もこの日にむけてきた朝は、
静かにKUMABLUEの空が広がったイイ秋だ。
オープニング・パーティが始まる前の午後三時、
MILANOのテレビ局がインタビューにくる。
いよいよだなぁ。

昨夜は500人ちかい正装した人々が集まっている
ホテル・フォアシーズンズの広大な広間で、
夜十一時から始まったディナーに
<ANTEPRIMA>のテーブルに招待された。
オレはビニール袋に
インビテーションやカタログを詰め、
フェラーリレッドの靴を履いて駆けつけた。
入口で待っていたエルマンが
<KUMA>と書かれた招待状と、
真っ赤なフェラーリーレッドのオペラグラスを
プレゼントしてくれた。
さっそく頸にかけた。
靴と黒いシャツのうえでいいバランスで派手になった。
「いいねぇ」エルマンがニッコリした。
テーブルにはOGINO夫妻の他、
エルマン、ファッション関係の
デザイナーや記者が円卓についていた。
IZUMIさんがオレをみんなに紹介してくれたから、
「明日はオレの初日のパーテ ィだ。来てくれよ」
インビテーションにサインして配った。
足の指の1本づつにダイヤのリングを嵌めた
派手なマダムがオレの隣だった。
エルマンが
「彼女がKUMAさんのOBJEを欲しいと言ってる
 GIOさんです」と
言う。
ハハハッ、こりゃあ出来すぎだと思っていると、
「アンタのOBJEがワタシは欲しいの。
 あしたセガレを連れて行くから話をしましょうね」
と言いながら急に憤慨した 顔になり、席を立った。
しばらくすると黒服の貫禄のある支配人が来て
「席を移ってください」と恐縮している。
導かれるままゾロゾロ移動すると
ホールセンターのテーブルに、
GIOマダムはすでにゆったりと座っている。
「ジャパンからわざわざ来ているのに、
 あんな隅のテーブルなんて何考えているのって
 言ってやったの」と平然としている。
このマダムGIOは何者か。
通る人々がみんな挨拶をしていくではないか。
エルマンも顔がひろい。

<ANTEPRIMA>の森繁嬢が
ハンドバッグに忍ばせたオレのパーティ・インビ
テーションを、二人してテーブルを
飛び回って配りまくっている。
彼女はあの俳優モリシゲのお孫さんという。
IZUMIさんが次々とくるデザイナー等を
紹介してくれるのだが、
名前なぞ覚えているヒマなぞないから
「オレがKUMAだ、明日オレを見に来てくれ」
としか言いようがなかった。
山梨FACTORYで独りゲージツして
還暦を迎えたオレは、
終の瞬間までゲージツ兵士である。
タフなゼニや体力が必要な燃費のかさむ人生を
ゲージツに選んだのはオレ自身だ。
OBJEを創るのは日常生活そのもので当たり前すぎる。
黙殺されるぐらいなら、
例え非難されてもこうして国境を越えた方がマシだわい。
ゼニは切れつつあるが、
才能を支える気力と体力は残っているワイ。
無名な兵士に束の間の
ゴーカな休息ジカンをプレゼントしてくれた
OGINO夫妻に感謝する。
夜中二時宿に戻った。
オープニングにサイバー・高城君が駆けつけると
ロンドンから電話があった。
もうすぐ、砧スタジオで会っていた
北野巨匠や今田や渡辺マリナも着くはずだ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-09-18-WED

KUMA
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