クマちゃんからの便り

オレのカレンダーは<2003>

トランクにカタログを八冊を詰め込むだけの荷造り。
ミラノからジャパンに戻る前に、
なんとしてもJINOに会っておきたくて、
シシリーからも何度も電話したのだが
連絡がつかない。
夕方、やっと彼の嫁ビビアナに繋がりメシを喰う約束。
<KITANO>巨匠がミラノを離れるとき、
オレに置いていってくれた220V対応の電気ポットを、
ティーの好きなビビアナに持っていった。
MUDIMAに置いてみんなで
お茶を楽しむと喜んでくれた。
オレと同じにゼニはないが、
アーティストとの関係を大切にする
JINOのMUDI MA美術館に、
今回の一番新しい<La Campanella>を
プレゼントすることにした。
ありがとう。MUDIMAコレクションで展開していく、
それにしてもかって、
自費でこんなに力に充ちたOBJE群とともに
乗り込んで来たゲージツ家を知らないと言う。
ゲージツ抜きの人生なぞオレには、
生きている意味さえ全くないものだ。
ジャパンに戻っても相変わらず
ゲージツは続いていくだろうが、
ヨーロッパまでの距離はもうゼ
ニは尽きたオレには遠すぎる。
それでも何とかして来年も再来年も、
ゲージツの原子と無数の分子で出来たオレの身体一個を、
イタリアに運び込んでは
創作し発表し続けていくつもりだ。
その時はまた相談にのってくれよ。
わかっているさ。
今回のOBJE群はこっちに残していき、
お前のこれからのヨーロッパ展開に使えるといいのにな。
そう思っている。オレにいまさら凱旋なんてないし、
オレが立つところが何処だって
FACTORYになるんだ。
今回のこちらで会ったコレクターたちも、
次のオレのOBJEにまたたまげるだろうな。
レストランの外に物凄い稲妻が走り、
雷の音がMILANO中に響き大雨になった。
JINOとオレは大喜びしたが、
ビビアンやナルセやジッピーは身をすくめた。
完璧な秋になっていた。
オレの癖のある日本語を英語に直して通訳してくれた
ジッピーは、明日寒いプラハに向かう。
オレとナルセは、
イタリア在住の早苗女史と会って
今後の事務的なことを相談し、
彼女の堪能なイタリア語で日本語を直接通訳してもらい、
MUDIMAのジャンルカに
オレの来年の制作予定の意志を伝えたいのだ。
飛行機の出発時間までゲージツ家は走り回る。
創るだけに専念できる時が来るのはまだまだ遠い。
こんなジカンもひっくるめて続くのが、
オレのゲージツなのかもしれない。
オレのカレンダーはもう<2003>になっている。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2002-09-27-FRI

KUMA
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