日一日と・・・
追記:
12日午後10時から45分まで
NHK3チャンネル<教育テレビ>の
ETV2003「親友」(3) で
どんなことを言ったのかもう忘れたが、
去年のクソ寒い暮れにオレのFACTORYでの
大鼓奏者・大蔵正之助との対談が放映だという。
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FRANCESCO修道教会の中庭に
予定のオブジェ<循環するヒカリ>は
高さ六メートルになるのだが、
作業の手順を考えながら三次曲面を
一ミリ方眼紙に悪戦苦闘しながら設計図面にした。
六トンのH鋼と二トンのヒカリの
カタマリを使うことになる。
一個一個の部材を拾い出して重量計算や、
見積もりのゼニ計算。
いつだって十全なゼニはなかったし、
辺境の悪条件のなかテコとコロを駆使する
汗臭い筋力と知恵で大きなオブジェを
創ってきたオレにとって、
ヴェネチアでの制作は恵まれた都市であるが、
古い教会内にはこんなモノを創る溶接機を
満足する電気の容量はないし、
まずこの重量を吊り上げる重機を運び込む入口もない。
コンパクトな組立て式の重機も設計し、
こっちで作り運ぶことにした。
きっとオレは、
《明日世界が破滅するとしても、
まだヒカリを創り続けている》のだろう。
五月中旬には鉄や硝子とともにヴェネチアに遠征し、
快く提供してくれる教会の部屋に
泊まりこんで制作していく過程すらが、
すでにオレのゲージツである。
五ヶ月という長い開催期間、
今までオレの重厚長大なゲージツの
真骨頂を見せるのだ。
鉄を繋ぐのは溶接ではなく、
全てをボルトアップで建てこむ設計にした
<循環するヒカリ>を、
甲斐駒の麓にある<神代桜>で有名な
実相寺の空地でシュミレーションすることになり、
村の百姓の軽トラに乗せてもらい酒をさげて
住職に挨拶に行った。
「上がっていきなさい」
住職の言葉に、あっさりと上がりこむと、
むかし村の衆が作って持って来たというマムシ酒を
「まだ寒い日が続くからこれを飲んで頑張って」
と勧められ
痛風のことも忘れて一杯飲んだ。
懐かしいTORISウィスキーの
デカ壜がマムシのエキスで
高級なスコッチの味になっていた。
里芋の煮物や鮑の煮貝がコタツの上に出され、
久保田の一升瓶まで出てきた。
千年以上まだ花を咲かせている神代桜の生命力や、
寺に棲み付いた大蛇の話や、
落雷で地面から飛び出した大量のモグラなど、
生物の話について喋っていたら一升壜が空になっていた。
高い天井の寺は酒を飲むには心地イイ空間だった。
軽トラで送ってもらった。
奥出雲の金屋子さんやたたら製鉄の炎で
痛風も飛び散ったのか、マムシ・ウィスキーの御蔭なのか、
痛みもなくいつもと同じに朝からゲージツだった。
FACTORYから天気のイイ外へ延びていく
カンパネラに、
セキレイが糞を落として飛び去った。
しかし、糞とオレのアクションは区別つかない。
オレの作業服を作ってくれている<鳶>が
ヴェネチア・ヴァージョンを作ってくれることになった。
サポートしてくれるムラーノ島のマエストロ達が、
オレのデザインした作業服を着て
二〇〇kgのヒカリの柱を運ぶシーンは壮観だろう。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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