ONLY IS NOT LONELY
山ごもりで過ごしたオレ独りのゲージツジカンは、
去年の11月からすでに4ヶ月過 ぎていた。
シミュレーションで武川の高台に建っていた
ヴェネチア個展のメインオブジェ<循環 するヒカリ>は、
ついに確実になった春の朝ジャパンから消えた。
オレの数少ないサポーターどもが終結して、
それぞれがそれぞれの部署に付いて解体が始まった。
シミュレーションで課題だったジブクレーンは
凛(りん)と起(た)った。
改良は完璧である。
これさえあれば、ヴェネチアでの
<循環するヒカリ>は難なく再構築できるわい。
誰一人美術についての専門的な教養なぞ付けずに
土木や鉄鋼に人生をやり過ごしてきた、
中年域を過ぎた野放しのスタッフどもの
機敏な解体手順を眼で追っていた。
ヴェネチア映画祭と共催の野外展<OPEN2003>の
招待作品を夢想していたオレの頭蓋は、
もうゼニが無いことは限界に来ているが、
止まらないゲージツのインスピレーションは
鉄のOBJEが圧迫していた。
キロ当たり鉄の20倍はする硝子単価は、
すでにオレの経済を越えているから、
<OPEN2003>のオブジェは圧倒的な鉄を使った
オブジェを披露することにした。
これもまたヨーロッパ人がまだ眼にしたことのない
出来事になるだろう。
ゴールデンウィーク前には完成する予定だから、
またウッカリ出来ない日々が始まるのだが、
厄介な方の路を選んでしまうオレである。
予定通り完成した100メートルの
<ヒカリのCAMPANRLLA>を、
高台にある禅寺の参道に並べ、
オガワ氏に撮影してもらい
全てを梱包屋に運び込むと雨になった。
FACTORYに戻って野放しのスタッフとエン会。
「オレにはもうイタリアの業者を雇うゼニはない。
今日の作業で分かったろうが、
お前らと行動すれば<循環するヒカリ>は
三日もあれば再構築できる。
小ゼニを吐き出してオレのゲージツに参加せよ。
報酬は<ローテクの幸せ>だ」
ヴェネチア遠征のメンバーをリクルートしていた。
芋ジョーチューのスピリッツは4人の野郎どもを
奮い立たせてチャーターした。
先日<誰でもピカソ>の収録のあと六本木に浮遊。
グラビア取材とレポートを書いてくれるという
伊集院静氏の援軍。
天はまだ往ける所まで行ってみるオレを見放してないらしい。
糸井からの手帳の表紙には
<ONLY IS NOT LONELY>とあった。
相変わらず上手いことを言うわい。
雨の音を聴きながら、OPEN2003のスケッチ。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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