春の雨
山のFACTORYに桜はまだだが、雨の温度が春である。
ヴェネチア向けのオブジェを送り出し、
九月のヴェネチア映画祭と同時開催される
リド島での<OPEN2003>招待作品の制作に入る。
古い巣箱をくくりつけている
雨に濡れたアカマツを眺めながら、
一トン五〇〇の鉄のコスト、構築方法、
輸送などを思案していた。
いつものことだが、オレは目線だけのデッサンを
紙にではなく空中に、
オレにだけ見えるデッサンを描いていた。
オブジェの稜線が明瞭に見え始めたとき、
クシャミが出た。
部屋に戻ると<フューチャーパイレーツ>の片瀬クニから
メールでポスターのデザインが送られてきた。
いっぺんにオレの頭蓋が六月になっていた。
ヴェネチア個展のポスターを、
何とも贅沢なことに昨年のミラノ個展のオープニングに
わざわざ仕事先のロンドンから駆けつけてくれた
あのサイバー野郎の高城剛に頼んでいた。
高城の子分・片瀬クニがディレクターを務め、
凝った<KUMA>のロゴも創ってくれた
才能あるデザイナー森山貴裕が
B全判ポスターに仕上げてくれたこのデザインは、
イタリアの美術雑誌<ARTFLASH>の広告ページや、
街に貼られるポスターになるのである。
やっぱりポスターは前進するムーブメントの旗である。
ありがとう、高城、片瀬、森山、感謝してるぜ。
ゲージツ家からのお返しは、マイセンのトンカツ定食と、
<循環するヒカリ>とともにヴェネチアで
このポスターが話題になる予感だ。
昼過ぎ、高知からわざわざ飛んできた
<技研製作所>の北村社長が来社。
普段天道さんがあるうちは酒を口にしないが、
雨だから囲炉裏でウルメを焼きながら
友情のショーチューを呑む。
彼が考える既成概念や常識にとらわれない
新しいインフラ工法や、
オレの頭蓋に描き残してある<OPEN2003>の構想。
『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。
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