クマちゃんからの便り

荒ゴト前の静かな雨





雨の合間を縫いながら<OPEN2003>のオブジェに
濃い酸をくらくらしながら塗り、
錆の膜を作って鉄を保護する作業。
たちまち表情を変える。

ヴェネチア遠征紀行の原稿二〇枚
(小説現代7月号・6月22日発売)は
今月末が締め切りだが、
出発を前にしてぽちぽち書き始めていると
GARAの具合が芳しくない。

八月六日誕生の彼は産まれてすぐにオレのところに来て、
今年で満二十三歳になり
猫としてはすでに高齢で、
糞を気張ると白濁している小便に血が混ざり
ロゼ・ワインのようになる。

それでもけなげに足を引きずりながら、
オレの遠征が明日に迫っているのを感知しているのだ。

ヒトのように死への恐怖を持たない猫は、
今の痛みにただ耐えながらジッと自浄しているが、
あまりにも不憫になり雨の中、
GARAをバッグに詰めていつも世話になっている
カサイ医師に時間外の点滴をお願いに行った。
GARAと離れるたびにもう生きては逢えないと思う。

フランチェスコ修道教会の中庭に
十トンの鉄と硝子柱で組み立てる
<LA LUCE CIRCOLANTE>は
ちょっと荒ゴトの今回はちょっと長くなるけど、
GARAに奇跡のように生き延びる力は残っているか。

ヴェネチアに着くなり、
荷物の点検やら狭い教会に
重い部材を運び込む算段だとか、
まだまだ開催までの厄介な問題が
待ちかまえているのだろう。
ザラザラした荒ゴトは、
ヴェネチアからのゲージツ日報にて報告。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2003-05-14-SUN

KUMA
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