クマちゃんからの便り

炎天にエロ唄を聴く

宿



台風去って快晴のアカマツ林に
やっと夏の風が過ぎていき、
平日のせいか高い天井に
マツボックリがコソリと落ちるばかりで
静かな山の中だ。

FACTORYの雨漏りが引き
コンプレッサーも無事に復活し
研磨機作業も再開である。

ヴェネチアに先乗りした七時間遅れの連絡では、
ヨーロッパは異常な猛暑らしいが、
今週末からオレも炎天のリド島に駆けつけ
<まだ未熟なピリオド>のボルトアップ作業は
なかなかタフなことだわい。
サハラ砂漠の四十八℃での制作を想えば
気休めにもなるが、
あのころはまだ五十代だったか。
マ、往ける処まで往ってみるのだと
言い聞かせるオレの掌は、
KUMABLUEの冷たい表面を
心地よく検知していく。

二十年以上開けることないまま段ボール箱に、
誰から貰ったかモノか思い出せないほど
古びたカセットテープが出てきて、
ラジカセに入れると

「ヤートセ コラ 秋田音頭です」

と賑やかな音頭が飛び出してきた。
新宿ゴールデン街で呑んでいた頃に、
酔った秋田出身の役者が
秋田音頭のエロ歌をよく唄ってくれたものだ。

「ハイキタカサッサ コイサッサ コイナー」

掛け声は同じだが、歌詞はやっぱし陽気で
大らかに長々と続く秋田音頭でエロの歌詞に、
集中した研磨作業を中断して
一人聴き入り笑ってしまった。
いくつか抜粋すると

  おら家の姉ちゃ めったにないこと
  縁側さ 昼寝した
  春風吹いて来て 腰巻きとんだば
  黒猫 顔だした
  ハイキタカサッサ コイサッサ コイナー
  在郷のあねちゃ 田の草とにいて
  アンビさ どじょう入れだ
  どじょコもどじょコ
  キョヨキョロめがして
  オヤえでや ホンガホガ
  ハイキタカサッサ コイサッサ コイナー
  爺ちゃと婆ちゃ 此の世の別れに
  一番ブッ始めた
  何ぼか 快いやら 二折げしがて
  アネー 水持って来い

  
そして最後は

  あの税 この税 役場の税たち
  息つく暇もない いっそのごとだよ
  ある物ブチ売って ヘコして死んだ方がエー


と結んでいる。
若い頃背伸びしていた酒場で聴いた戯れ歌も好かったが、
山ん中で独りフジコ・ヘミングの
<カンパネラ>を聴いた後は、
ブルースよりも陽気なエロ唄がよくなってきた。
涼しくなった夜になってまたヒカリを磨きだす。

『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2003-08-14-THU

KUMA
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