クマちゃんからの便り

<OPEN2003>オープン!!!


ギリギリの前日に無事完成して、
二十七日の朝は余裕で
<BLUEMOON>に向かった。

実は二、三日前までは
イタリア事情に慣れっこの事務局でも、
今回KUMAだけは参加不可能だろうと
踏んでいたらしいと
昨夜、奇跡の完成後に聞いて冷や汗が噴き出した。

しかし、澄み切った今朝の空気の中で
<まだ未熟なピリオド>の一層ジカンを蓄えた錆が、
ゴールドに輝いていた。
訪ねてきたNYの評論家モルガンと
オブジェ脇の草に座り、
TSUCHYを通訳にして
いろいろ質問や意見を受け、
オレも今までのことや、
これからのゲージツのことなぞを喋った
久しぶりのイイジカンだった。



ときどき巨大なボックリから弾き出された種が
オブジェに当たって、音が反響していた。

「この音もKUMAの計算なのか」

「当然そうだ!
 あの音は種が成長を始めるゴングなんだよ」

オレのピリオドは終止符ではなく、
次の始まりを含んでいるが、
コンマとは違うんだともっと言おうとしたが、
面倒な通訳になるだろうと思って、
笑って誤魔化した。

「分かるよ。アートは今、頭でこねくり回し過ぎて
 袋小路に迷い込んでいる。
 あんたの五感と筋肉全てで創り出すチカラに
 圧倒されるよ」

なかなか分かっているじゃないか。

マ、全てを分かってもらおうと説明するなぞ
オレの質ではない。
観たヒトの歴史や教養なりで感じればイイことだ。

午後四時、エクセルシオール・ホテルの三階大ロビーで
<OPEN2003>の記者発表が始まり、
大写しされたスライドでオレのオブジェも紹介され、
暗い場内に低いWOOHという溜息が拡がった。
展示は十月五日まで続くが
もう終わった気分になった。



カクテルパーティはハンガリアンホテルの
ガーデンで行われたが、
盛況で食い物にはありつけず
ワインを少し飲んだだけだったのは、
カタログを持った人等にサインを求められて、
飲み食いが出来なかったのだ。

そこに登場した今回彫刻家で参加した
ジーナ・ロロブリジダが、
オレを見つけて手をさし出してくれたから、
TVや雑誌のカメラが賑やかになった。

PINO、RICHARD MEITNER、
DANTE、FRANKO−Bなどの
そうそうたる芸術家たちが
オレのゲージツに関心を寄せて
作品集を交換したのは面白かったし、
無名だったオレのゲージツを眼にした評論家たちや、
ギャラリストらが興味を持ったことが
いまさらながら驚いた。

アパートに戻り、太い黒枠に
<Il Fumo danneggia
 gravemente te e chi ti
  sta intorno>
と印刷されたキャメルを吸いながら
交換した作品集を眺めていた。
去年九月ミラノのMUDIMAで
初めて個展をやってから、
小さいながらミラノの画廊での個展、
ヴェネチア・フランチェスコ教会での個展、
そして今日始まった<OPEN2003>まで、
一年足らずの期間に
巨大なオリジナルも輸送しては四つもこなした。

我ながら呆れたアングラダマシイは、
また次の浮遊先へ向かいつつあるのだろうなぁ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2003-09-03-WED

KUMA
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