クマちゃんからの便り

珍菌一族




TSUCHYからのメールで
フランチェスコ教会での<チルコランテ>の解体も
ファビオたちと無事に終わったとの連絡。
ヴェネチアで六ヶ月暴れていた個展もついに終わり、
今年もふた月足らずになったか。
ロンドン、プラハ、パリ方面から
来年以降のオファーもマネージャーに届いている。
<世界戦略>なぞという仰々しいスローガンのないオレは
砂漠を行くアルチュール・ランボーのように、
ただたんたんと往ける処まで行くのである。

黄色く色づいた葉っぱの散るジカンが迫って、
大きなヒカリのカタマリに水を使い研磨する
制作ローテーションの冬も、近づいてきた。

大武川は甲斐嶽から吹き下ろす風の通り道で、
その川縁に建つFACTORYの
北西に面したオレの部屋は、いつも零下の冬になる。
眠っているあいだに体温を奪われた筋肉が
朝を迎え痛みやがるから、
ストレッチで筋を伸ばしてからの作業になる。

「今年の山はマツタケは駄目だったけど、
 <野生シメジ>の群生を見つけただよ」

興奮気味で村のSと大工のTが
採ってきたばかりのキノコを分けてくれた。

「寒いだねぇ。トタンにベニヤ板を打ちつけただけの
 この部屋じゃ、野宿しているのと変わらんじゃあねぇ」

鍋を突きながら、ショーチューを呑んでいたSが
白い息で言う。

「何とかならんもんかな」

オレの溜息も白い。

「断熱材入れて壁を作るしかないだねぇ」

部屋を見回す大工Tは赤い顔で言う。

「ゼニはねぇだよなぁ…」

オレも思わず甲州弁になっていた。
Tとオレは指を立てながらゼニ交渉する。

「節があって売り物にならない板を打ちつけて、
 掘っ立て小屋の外壁ふうの内壁にしたいだよ」

「暗くなるけど、冬の間だけ窓を板戸にするけぇ」

「どうせ眠るのは暗い夜だ、構わんわい」

シメジのささやかなエン会で交渉成立した。

ヴェネチアのチャイニーズで喰った
<珍菌一族>というキノコ料理を思い出した。
普請中のシゴトの合間に超特急で仕上げてくれるという。
ありがたい。
山からきた野生珍菌がオレに温かい冬をもたらしたのだ。

五メートル布で作るオブジェに
15000個の釦を取り付けるラフ・スケッチを
パリに送ったのだが、

「ゴルチエと同じ入り口のメインホールを用意して
 楽しみにしている。ただ四メートル七〇にしてほしい」

とのEメール。

越冬の掘っ立て小屋が出来るまで、
岡山の縫製工場でミシンを操って制作だ。
暮れにパリから戻れば四国で巨大な石を割り、
ヒカリと一緒に研磨したり、海にも漂うジカン。



現象する場所をゲージツのFACTORYにするオレは、
ゲージツをしながら死んでいく生物なのだろう。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2003-11-09-SUN

KUMA
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