クマちゃんからの便り |
釦を撃つ縫製工場 作業服<鳶>の新社屋カセヤマビルが出来上った一〇年前、 オレが巨大な裁ちばさみのオブジェ <ヴァイタル・シザー>を創って以来のつき合いになった。 高知に行ったり、高松でのゲージツ行のおり 岡山に立ち寄って彼の茶室<む庵>に寝 起きしてきた。 <裏千家>というのは漠然とは知っていたが、 彼の<む庵>が<藪内家流>の燕庵をなぞって 建てられていたものだとは、知らなかった。 もちろん藪内家流も初耳だった。 三畳台目のいう広さは、ま、三畳間ほどの広さだ。 タバコのみで酒飲みの無粋なオレの細胞にも、 水屋にある古い茶道具類や 立派な茶室が放つジカンの気配が 充分に染みこんでくるものである。 しかし、いにしえの匠の技で創った空間で、 オレは茶を点てるでもなく、 夜になれば引き込んだコンセントにパソコンを繋ぎ コトバを打ち込み、ノートにメモを書き付けて、 眠くなれば布団を敷いて恰好のねぐらにしているのだ。 夜中に布団から横着に出した上半身だけを にじり口から這いだして、踏み込み石に上に置いた灰皿で こっそりすうハイライトは美味い。 朝、にじり口から、敷地内でいつもは作業服を作っている 彼の縫製工場に出勤して、 今回釦を付けた布のゲージツをする FACTORYにしているのだ。 週末休んでいる生産ラインの釦付け機に向かって、 慣れていない自動装置のペタルを踏むのだが、 タイミングがずれて釦が飛び散ってしまう。 いちいち拾っている場合ではない。 生まれて二年になるここの孫娘の目の高さの範囲に、 飛び散る色とりどりの釦が面白いらしく、 拾い集めては箱のなかに納めてくれる。 彼の一族の果てまで駆り出してゲージツはフル回転だ。 元々服の釦を一列に付けるだけの機能を、 しかもジョーゼットという柔らかい布に びっしり釦を付けていくようにはできていないのだが、 打ち込んでは身体に巻き付けていく一五平米の布が、 やっと半分が出来上がった。 慣れてきて釦は一万五〇〇〇個の予定が 二万個ちかくなっていた。 全部打ち揚がったら、 この巨大な皮膜をパリに運びこんで オブジェに仕上げていくのである。 コンパクトに梱包して巨大に再生するのだ。 |
2003-11-11-TUE
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