クマちゃんからの便り |
サーサラホーサラ 「寒くなったなぁ。シゴトはどうかい」 「サーサラホーサラさよぉ」 根っからの村育ちであるSさんは 日常会話も完全な甲州弁で、 ときどきオレには全く意味不明なコトもある。 岡山弁に囲まれて釦を撃っていたオレは、 山奥のFACTORYジカンに戻った。 サーサラホーサラは、 <家の中のことや外のシゴトやらでせわしない…> というようなニューアンスらしい。 土臭いリズムがなんとも心地イイ。 「ゲージツ家に新米10kgついてきただ」 「ありがとう。久しぶりに武川米喰えるわい」 貰ったばかりの柿を囓りながら、 半年間続いたヴェネチア個展も終わり フランチェスコ教会から、解体された巨大オブジェが 無事運び出されたことを彼に伝えた。 半年前、教会に再構築するために連れて行った サポーターの一人だった彼は 「ほーけぇ。あっという間だっただねぇ…」 懐かしそうな目を、雨雲に煙った遠くの山に飛ばしていた。 冷たい雨だ。 ペダルを踏んでは撃ち込んだ釦付け機に、 小さな釦を一個ずつセッティングする作業は、 以外と目が疲労するモノだった。 パリに持ち込むこの<釦の飛行>の仕上げや、 年末から再度石切場を訪れて、 中央病院ロビーの<天のヒカリ地のヒカリ>のために 一〇トンちかい石の削り出し作業などを控え、 オレはつかの間<華厳>の世界に浸り、 疲れていた目を景色に這わせる。 山は枯葉色に変わり、炭酸同化作用を失い 林のなかで赤く染まった桜の 葉っぱの一枚一枚から垂れた天滴が世界を湛えては墜ち、 ゆっくりとまた膨らんでいく。 寒いのもいつか忘れて眺めているうち、 <今、ここ>だけになっていた。 醒めながらも激しかったゲージツ・ジカンが、 意識の深みのアナログ・ゾーンへと降りていき 酔いしれたような<今、ここ>だった。 一粒一粒の小さな天粒に <全即一、一即全>を感じていたのだ。 オレはときどきこれをくり返しながら 活性しているのだが、 夕方になって、村まで下りて灯油ストーブを買った。 なんだか嬉しい。 |
2003-11-16-SUN
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