クマちゃんからの便り

釦、ついに舞い上がる

一〇色の釦を一八〇〇〇個を無事取り付けた
五メートルのナイーヴな布のジョーゼット三枚を
ファスナーで繋ぐと、
一五平米の表面積の円筒になった。
FACTORYのクレーンに掛けて
天井近くまでつりあげたオブジェは
シャッターから吹き込む風で、輪郭を痙攣させ、
釦に残した下糸が震え、
ジャックと豆の樹のように釦が果てしなく登り続ける。
一八〇〇〇個の<釦の飛行>だ。

オレは筒の中に潜り込んで骨を入れていく。





今年夏、小さく梱包した鉄のピースを
リド島にてボルトアップで再構築したのは、
直径四メートルの<まだ未熟なピリオド>だったが、
今度は圧倒的な量の釦をとりつけたやわらかい素材を、
畳んで特製段ボールの梱包箱とともに
飛行機に乗り込んでパリ入りするのだ。

十二月パリへ運び込み再構築する。
名だたるファッション・デザイナーと
アーティストのコラボレーションのイヴェントに
招待されたオレの巨大な<釦の飛行>は、
アンテプリマとのタッグ。
<ゴルチエ>のオブジェと隣り合って
メインホールにて競うことになる。
マ、来年からの足がかりだ。

村の大工Tが、荒々しい松の板を
掘っ建て小屋ふうに打ちつけ、
断熱材を張り付けてくれたゲージツ部屋は、
オレのイメージどおりに仕上がっていた。

石切場での石との制作も待ちかまえているが、
街を浮遊するジカンもめっきり減って、
鉄や硝子で果てしないヒカリや
闇に向かっていくアイデアに、
軽みも加わったプランがノートに貯まっていく。

通る車も少なくなる山奥のこの季節、
連休の中日で晴天の今日はやたらとヒトや車も多い。
美味い米の生産地である村は、
FACTORYの上にある親水公園で
毎年<米米まつり>が開催されている。
他県ナンバーが多いのもそのせいだ。
ワンボックスが入ってきた。

「これから八ヶ岳の保養所まで行く途中だけど、
 いればと思って寄ってみた。
 偶然だけど出来たてのオブジェに会えて良かった」

以前にCMを一緒したプロデュサーB氏の一家だ。
<釦の飛行>はもうすぐパリへ旅立つんだというと

「成功を願ってます」

土産にとワインを一本。

<モメサン ボジョレ・ヌーヴォ セダクション
 ・キュヴェ・リディ2003>
長い名前だ。

「イノシシをカボチャとサツマイモとで
 ダッチオーブンの蒸し焼きにして、
 ハイカラな酒を村の衆と呑むわい。
 ありがとう」

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2003-11-27-THU

KUMA
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