クマちゃんからの便り

パリの灯に釦の飛行

隣に座っているエルマーノが、
オレの膝を突いてエッフェル塔を指差した。
暮れはじめたPARISの空に
イルミネーションがヒカリのレース編みのようだった。
そしてANTEPRIMAの腕時計を見つめ
「3、2、1…」カウントダウンし、
間を置いてから「あれっ」と呟き眼をあげた。

「どうしたんだ?」

と訊き直すと、彼の指差す先のエッフェル塔が
突然激しく青白いヒカリに
フラッシュしはじめるじゃないか。

「スパークリング・シャワーだ!」

塔全体が美しく浮き上がった。
彼はオレにこれを見せたかったのだ。
それを左に眺めながらタクシーが会場の宮殿前に着いた。
鉄門扉が細く開けられた入口で、
屈強なガードマンがチェックしていて
招待状がなければ入れないらしい。
フランス人の美術評論家のドミニク・ステラも、
招待状と身分証明書を照合される厳重さだ。

「KUMA、パスポート持ってきた?」

「手ぶらさ」

「でもKUMAはゲージツ家だから大丈夫」

エルマーノが印刷してある作家のKUMAに
間違いないないことを説明すると

「OK、ムッシュ」。

IZUMIさんはオレの<釦の飛行>に合わせて、
街の店で見つけた貝釦で出来た帽子を載せていた。
さすがにファッションの心遣いが嬉しい。
ドレスアップした人たちでごった返している中を
掻き分け、<釦の飛行>の展示場所まで
彼女を案内しながら誇らしかった。





観るなり

「あっ、素晴らしいわ。おめでとう」

IZUMIさんが眼を輝かせた。
ひとの流れで揺れ、釦から垂れている
色とりどりの糸がなびいていた。

「KUMA、凄いわ。またやったわねぇ」

ドミニクもオレの頬にキスをする。
彼女はミラノMUDIMA個展のキュレーターだ。
もうオレの手から離れてそこに在るオブジェを
他人事のように眺めながらも、オレは満足していた。
あっという間にオブジェの前の二人を
カメラマンらが取り囲み、
テレビクルーの取材攻勢である。
一番注目をあびているらしい。

『ゲージツ・ダマシイの底ヂカラのカケラを、
 PARISへのオレからのほんのプレゼントさ』

シャンペンのほろ酔いで、独りほくそ笑んでいた。
カケラにしては大きいか…。

『明後日から一般公開らしいが、
 大勢のヒト等も心地良くなればイイわい』

大混雑のなか、オレの気はすでに
次の浮遊先にとんでいた。
次々と<釦の飛行>にヒトが集まってきては
笑顔のフランス語を飛ばしてくるのだが、
何のことだかわからない。
マ、賛辞なのだろう。
コトバの主のファッションの大立者たちを、
IZUMIさんが次々に紹介してくれた。

ピエール・カルダンだけは分かった。

2003-12-23-TUE

KUMA
戻る