クマちゃんからの便り

ヒカリ繭浮上す


FACTORYから出ることなく竹で無言の二週間、
<ヒカリ繭>をひたすら紡いできた。

これは八月奈良での灯華会に参加する
<ヒカリ繭>のミニチュアである。
和紙を貼り込んで十四日、やっと仕上げた。

夜、釣友のカーペンが大きなワンボックスで迎えに来た。
完成した<ヒカリ繭>を
十五日記者発表のある恵比寿まで運送するためだ。
田植え準備を済ませた須田さんも駆けつけてきて祝杯だ。

「皆の衆、酒はいくらでもある。
 酔っ払う前に撮影するぞ」

アカマツ林のなかへ<ヒカリ繭>を担ぎ込んだ。
七本のロウソクに火を点すと、
うっそうとした植物群のなかに
和紙を透かしてヒカリの繭が浮かび上がった。



ショーチューで乾杯しながら、いにしえの真夏の夜、
空や池の水につかの間浮遊する
巨大なヒカリの繭を夢想していた。
頭蓋内のその<ヒカリ繭>は、
短径三メートル長径五メートルになっていた。
奈良の真竹で作ったヒゴ二〇〇〇メートルは必要である。
オレも未だ見ぬ巨大な<ヒカリ繭>を
一夜で出現させるプロセスまでも組み立てていた。
『ヨシッ、いけるぞ』。

近くに住んでいる琵琶の元リュートという
中世の楽器を作っている山下暁彦氏が、
朝十一時から作っていたという角煮を入れた
圧力鍋を抱えてやってきた。
カーペンが持ってきた芋ジョーチューで
本格的なエン会である。
楽器作りの名人が、オレの尺八を納める箱を
黒檀で作ってくれることになった。
ありがてぇえ。

十五日昼過ぎ、FACTORYを出発代官山に向かった。
記者発表の会場になる庭園はビル街の谷底だ。
ロウソクが並べられた芝のうえに置いてみたが
ビルからの明かりがノイジーだった。

「あの紅葉の木の上に上げる」

カーペンに言う。
関係者は狼藉者を呆れ顔で見守っている。
見えないヒカリを追うゲージツ家を
もう誰も止められない。
オレとカーペンはなんとか
五メートルある樹の上に載せてしまった。
立体的になったヒカリに関係者の顔が明るくなった。
したいコトをせずにいると、
したくもないコトをやるのと同じくらい
苦痛なものである。
文春の森君が見にきた。

「道を歩いていると遠くからヒカリが見えましたよ」

夜空になって<ヒカリ繭>がますます明確に浮かび上がる。

雅楽の演奏に続いて宗次郎氏がオカリナを吹く。
音が谷間に木霊した。
奈良県産の食材で作った料理と酒粕のショーチューで
ガーデンパーティーになった。
初対面の宗氏と歓談。
八月、奈良での再会、
オレの好きな元興寺の茶室で
酒を呑みながら
音の話を聴かせてもらう約束。

関係者が「実は…」言いにくそうにしている。

「誉めコトバならもういらないぞ」

「いえいえ、とんでもありません」

「じゃあ、なんだ」

「実は奈良の鹿は紙を食べるんです。ロウソクだって」

「あ、そういうコトか」

<ヒカリ繭>を喰ってしまうかもしれないと言うのだ。
二日続きの痛飲で酔っ払っていた。

「大丈夫だ、ちゃんと次のアイデアがあるんだ」

「安心しました。断られると思ってましたから」

「まだ言わないけど、もっとバージョンアップした
 モノになるから」

オレの頭蓋にはすでに次のヒカリを想っていた。

この夏は熱くなるわい。
そろそろ海に漂いたくなってきたわい。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2004-05-18-TUE
KUMA
戻る