クマちゃんからの便り

元興寺の鬼

アズサは湿った濃い靄の中を走っていた。

線路脇のノリ面を覆う緑の蔓の群が、
列車の風圧で東京方面に飛び去っていく。

牟礼の石切場で十日間熱病にかかったみたいに
トラバーチンを切りまくり、奈良へ車で移動、
元興寺の地蔵会で二日間過ごすという過剰ジカンだった。

ビシャン・ハンマーにしてもハツリ・鑿にしても、
竹割り鉈にしても、みんな凶器にもなる道具である。
石のみは生肉の繊維が裂けていく音がする。
オレはそれらのモノを握りしめ
ストイックな十日を過ごしたあと、
ショーチュー漬けの二日間だった。

世界遺産の宿坊で辻村住職が
酔っているオレに語ってくれた<元興寺の鬼>が、
ときどきキダカアワダチソウの黄色が横切るたびに、
まだ靄がかかった頭蓋内を騒いでいた。
否、神になった元興寺の鬼ではなく、
オレのなかに棲息する過剰な邪鬼に違いない。

自然の本性としての近づく颱風の気配のなかで、
オレは自分の邪鬼と戯れているうち眠ってしまった。

しばらく留守にしてFACTORYも、
GARAの墓石も雑草に覆われ、
夜になって襲ってきた颱風の天飛沫が窓硝子を打ちつける。
波間を往く操舵室にいるような高揚感の頭蓋に、
また鬼どもが暴れ出した。
日照り炎天の石切場、
颱風に襲われた<ヒカリ繭>の奈良、
石切場から土砂降りのまた奈良へ‥‥
激しいゲージツ行の間も、
増殖し続ける自然がFACTORYを覆っていた。





颱風はあっさりと抜けていき、
甲斐駒がくっきりと姿を現したから、
草刈り機にエンジンを掛けて雑草どもを成敗してやった。

春に移植したガジュマルもイチジクも立派に育っていた。
GARAの墓に新しい水をあげると、
辻村住職から<日本霊異記>の説話の一部が
FAXで送られてきた。
説話を読む。
鬼がまた巨大になっていく。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2004-09-02-THU
KUMA
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