クマちゃんからの便り

洞窟


今年は、香川県牟礼の石切り場に通って、
石と硝子のオブジェを削るジカンが多かった。

金毘羅・金丸座のオブジェを設置し終わり、
久しぶりにすっかり黄色くなった景色の
武川FACTORYに戻った。

最終のオブジェは、十二月末に設置する
山梨中央病院の二十五トンである。
仕上げ作業のために牟礼の石切り場に
再び出向くまでの束の間、武川FACTORYで
二、三〇kgの小さなオブジェを創っている。

目覚めと共にやってくるゲージツに身をゆだね、
オートマチックに動き出す掌が
二、三〇kgのヒカリのカタマリを次々と刻み、
削りだしている。
掌先の輪郭に摩擦係数を感じながら、
頭蓋内では二、三トンのヒカリのカタマリを
夢想しているのだ。

洞窟の壁に刻み続けた古代人のようにである。

飽きてくる昼過ぎ電動自転車で村の畦道を駆動する。
以前はタバコ一箱を買いにマウンテンバイクで
村まで降りても平気で坂を戻って来たものだが、
最近は帰りの上り坂がイカン。
三回は休むようになっていたから電動自転車にした。

情けない古代人の自転車も、
やっぱし脚力がエンジンなのは変わりない。
ハンドルのスイッチをターボに切り替えれば、
作動するモーターがペダルを補助してくれるから、
スイスイと休憩なしで戻ることが出来るのである。
優れモノでも、戻れば使い果たしたバッテリーを
すぐに充電しなければならない。

甲斐駒の麓にFACTORYを建ててからもう十年になる。
その間ここからモンゴル草原へ、
サハラ砂漠へ、ダラムサラのダライラマ法王の元へ、
ミラノへ、ヴェネチアへと遠征してきた。
この村もついに合併して、
十一月一日から武川町になったらしいが
山や村の景色は十年前のままである。



甲府の病院建設現場を訪ね、
玉村所長や坂本君等と
二十五トンを設置するための最終打合せ。
春先から石切り場で創り続けてきた二〇個のカタマリを、
トレーラーで山梨の現地まで運び込んで
一個ずつ固定しながら組み上げていくのだ。

完成したオブジェの姿はオレの頭蓋のなかにある。
だいたいのコード進行は決めてあるから、
最初のキーの高ささえ決めておけば、
主題にしたがって展開していくだろう。
この大掛かりな作業自体すらがゲージツの一部なのである。

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2004-11-12-FRI
KUMA
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