クマちゃんからの便り

いつか何処かで


<SWEET ENERGY>のパーツは、
ひとつ三〇〇kgほどあり
仮組みしてみることはできないのだが、
やっと全部を磨き終えた。
完成した姿はオレの頭蓋の中にある。

牽引車に積み込んで、
いよいよ山梨中央病院の吹き抜けエントランスの現場へ
運び込み、クレーンで一個づつ積み上げていくのだ。
予定通りここにきて一番大きいパーツの形が気になり、
思い切って造り直すことにした。

墓石屋の機械は年末になりフル稼動だから、
頼み込んでやっと一台を確保して削りはじめていた。

「明後日、中川幸雄さんが
 金丸座にお見えになるんですが、こちらに来れますか」
 
と琴平町の役人・ウスラカガミからの電話だった。

「残念だけど、手を離せないんだ。
 よろしくと伝えてくれ」
 
と言ったものの、気になってはいたのだ。

翌朝、

「金毘羅へ行ってみるかい。もう一度観たいんだ」

やっぱり気が変わっていた。

「いいんですか。そんな時間の余裕はありませんよ」

と言うヨシは、度重なるオレの身勝手にうんざり気味で
軽トラのエンジンをかけた。
片道一時間かかる琴平に向かった。

「植物が生き生きしているこの場はイイ。
 仕上がったらまた来て見よう。
 仕上がるのが楽しみだねぇ」

象頭山にある金丸座のオブジェ設置予定のあの場所で、
折り重なる雑木の杜が揺れていた。
少年より小さな老人の澄んだ眼だった。
中川さんとの初対面だった。

圧倒的な石の景色のなかで続く筋肉作業で、
少し疲れていたオレの芯に地面の凹凸が伝わる。
車椅子と一体になった白塗りの大野一雄の舞踏が続く
草原の上空に、ヘリコプターが現われて
無数の紅いチューリップの花弁を降らせた。空
に華を生けたのが孤高の活け花師であり、
力強い墨痕の中川幸夫さんだった。数
年前、テレビのドキュメンタリー番組で観た
<現>を<夢>に変換したシーンだった。

「着きました」

芝の植え替えはまだだったが、
設置をすでに終わった石と鉄柱の
《宙(そら)にかぶく》が、
雑木の葉が風の形に流れているなかに立っていた。
いまさら手を加えるコトなぞない。
本当は中川さんに再度ここでお会いして
話をしたかったのだが、機械の都合があって
明日はどうにもなりそうもないのである。

風に絡まったタバコの煙が宙(そら)にかぶいた。
周りをゆっくり歩く
腰が直角に曲がった小さな老人の姿を想いながら、
足元に赤い落ち葉が散らばっていた。
雑木の杜でオレはだんだん生き返っていた。
オブジェの階段に、赤い葉を数枚散らしただけで
石切り場に戻った。

冷え込む夜になっても
<SWEET ENERGY>のやり直しが続いた。
作業が終わって宿に戻るとパソコンに、
中川さんに同行した内田真由美女史からメールがきていた。

オブジェの周りをゆっくり何度も回られたという。
彼女もそっとついて回り
彼のコトバをメモして送ってくれたのだ。


どの位置からみてもいいねぇ。

お気持ちの正直な誘いの姿が出ているね。

飾り気がなくて、
生き生きとして、
生々しくていいね。

自分の正直な気持ち、
姿があらわれていて誘いを招くよ。

公園というと、普通、飾りというか、
楽しんでもらおうとして、
心にもないようなことを望みすぎるだろう。
過剰になりがちなんだよ。

この作品は、正直な姿がでている。

決して甘くないよ。

正直な姿が、ここにふさわしいよ。

生の姿で誘っている。

自分の正直な姿で誘っている。





ちょっと照れてしまうが
褒められた覚えがほとんどないオレは、
宿をでて石切り場に戻り
一気に<SWEET ENERGY>を仕上げてしまった。

またいつか何処かでお会いできれば‥‥。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2004-12-02-THU
KUMA
戻る