クマちゃんからの便り

ひさしぶり


正月の二日から武川FACTORYで
版木のベニヤ板を刻みはじめ、
六日からは牟礼の石切場に出向いて
山梨中央病院のオブジェの追加を削り、
三日かかった<SWEET ENERGY>の設置作業も
二〇日に完了した。

完全に建ち上がった
十五トンのオブジェの周りを巡りながら、
石や硝子の割れ肌や磨き面を掌で何度も眺めていると、
去年の五月ごろから通いはじめ
石切場で過ごした三つの季節が頭蓋をかすめて消えた。

三月オープンして<SWEET ENERGY>が
<ここ>に在ることで、来院するヒト等の目に触れ
自分と環境という世界を
イメージする場になればとイイのだが。



過ぎ去っていったジカンを懐かしんでいる時ではない。
オレはまた版画にむかうために、
久しぶりにFACTORYに戻った。

オレが居ない間にカーペン君が
現場での資材の残りを持ち込んで、
オレのがらくた部屋を
コクピットのような版画部屋に
リニューアルしてくれていた。
すっかり冷え切った版画部屋が暖まるまで
小一時間がかかる。
エンドレスにしたフジコ・ヘミングのカンパネラを流し、
ガラスコップのなかで開いていく蕾の茶を飲みながら待つ。

石切場や設置作業の工事現場は寒くても、
いつも大勢の人等と過ごしてエキサイティングだったが、
独りの閑かでゴーカなジカンに、
ゴマ餅を食いながら茶を飲みながら
ゆっくり過ごしていた。

差し込む冬の陽差しに
真新しい二台のプレス機は
またオレを文無しにしたのだが、
これから刻み続ける世界をふくらませてくれる予感だ。
大きな版木にむかうのは二月からの予定だが、
彫りかけの版木を刻みはじめると、
カンパネラのピアノがオレの版木を刻む
サクサク音とシンクロして、
版画コクピットのエンジンが始動したようだ。
硝子を溶かしはじめた時のような気分だ。

今まで削ってきた鉄も硝子も石も、
これからも続くのだろうが巨大な版木も削るのだ。

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2005-01-25-TUE
KUMA
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