クマちゃんからの便り

絵金蔵




高知空港からそう遠くなく海に面した
<赤岡>という小さな町がある。
かつては塩田や漁で栄え高知以東で
一番の商都だった赤岡は、
絵師・金蔵が活躍した町でもある。
闇雲な合併流行りの昨今、
<赤岡>はついに日本一小さな町に認定された。

目出度いことである。

四万十川のほとりに<うつろう>を創って以来、
この赤岡の出身の北村氏とは
一〇年来の付き合いになるのだが、
彼は、杭打ち機を画期的に改革した圧入式の
<サイレント・パイラー>を作り上げ、
地球への循環型工法を世界中で展開し続ける
<GIKEN>を主宰しているヒトだ。

オレのゲージツの節目や、
季節の変わり目に赤岡の須留田の森にある
北村邸を訪ねると、酒豪の多い土地柄、
古い連れたちがいろんなモノを持ち寄り
決まってイッゴソウなエン会になるのである。

この海で獲れる<ドロメ>。
天然潮味の透明な鰯の子に柚酢をかけてシンプルに喰う。
<ウツボのたたき>もある。
オレはこれがすこぶる付きの好物なのだが、
海底の闇の割れ目に身を潜める
ウツボの分厚いコラーゲンは、
オレをショーチューの海に沈めていく。
エソというのはふつうに喰っても旨くはない魚だが、
この町の小さな蒲鉾屋が獲れたエソだけで
絶品の蒲鉾に作り、
エソが獲れなけりゃ蒲鉾を作らないという頑固ぶりだ。
これは丸かじりがイイ。

今回は、<絵金蔵>が完成した祝いで駆けつけた。

古い米蔵を改修して、赤岡の商家に多く残っていた
絵金の芝居絵を保存収納する<絵金蔵>にしたという。
土佐藩の御用で狩野派の絵師だった金蔵が、
贋作事件に巻き込まれ破門追放されてしまい、
町絵師になっておどろおどろした
芝居絵を描き残したのである。
何年か前に、夏祭りに訪ねたとき
横町商店街にある大きな酒屋の薄暗い倉庫で、
<絵金の芝居絵屏風>を見せてもらったことがあった。

薄暗いなかで生々しく光るような血赤に、
オレは釘付けになったものだ。
御用絵師を止めてからが本領発揮した人生だった彼は、
闇を焙り暗黒を生成したのだろう独特の顔料である。

大学で絵金をキチンと研究した若い女性が
館長、副館長を務めている小さな町に出来た、
小さな美術館である。
なかなか工夫した見せ方をしている。
本物を完全保存する設備が施されていて、
年に一度の<絵金祭り>では
今まで通りに解放するらしい。
普段はプリントを展示しているのだが、
絵金が工夫した顔料で模写したモノを
常備するようになれば、
一億光年の速度を持つ絵金の闇に近づけるはずだ。

高知名物、餅まきに参加しているうちに、
今宵もまたエン会になってしまいそうだなと予感した。
振り切るようにタクシーに飛び乗って、
なんとか最終便の飛行機に間に合った。
オレは少しオトナになっちまったようだ。

版画部屋に戻って絵金の凄まじい空間を夢想しながら
版木に向かう。

クマさんへの激励や感想などを、
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2005-02-18-FRI
KUMA
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