クマちゃんからの便り

百十四枚の鉄片


江戸川の冷たい吹きッさらしの
小さな鉄工場での制作作業は、
小さな百十四枚の鉄のパーツを造ることだった。

ニューヨーク、<MIKE WEISSギャラリー>へ
運び込むオブジェのひとつである球体である。
久々に鉄とのやり取りで仕上げたパーツを、
武川FACTORYへ場所を移した。

七〇〇本のボルトナットの一本ずつを丁寧に締めながら、
百十四個の鉄片を組み上げていく
オレの<一即一切 一切即一>の球形は、
ヴェネチアに持ち込んだ<未熟なピリオド>より
もっと緻密になったモノになるだろう。

鉄片が繋がって球形に近づいていく。
タイトルはまだ決定してないが、
オレの体温が掌から移る冷たい百十四枚目の鉄片を
締め終わると急に睡魔が襲ってきた。



球形がゴロゴロと転がりはじめ
FACTORY内をふざけるように走り回る。
シャッターを飛び出して、
県道に出てしまうじゃないか。

オレは球形になっちまい見慣れた畑も田んぼも
森も林も駆け回っている。
球形はズンズンと拡がって<今>になったようだった。
ほんの三分ほどだったが、
コンクリートの床に倒れ込んで眠っていたようだ。

六月末にはまたボルトを一個ずつはずし、
百十四枚に戻した鉄片を梱包してNYに送り出す。

六月の初旬オレはNYに渡り、
昨日まで何もないギャラリーでスパナーを握り、
今日と同じ所作でボルト一本ずつを締めているのだろう。
今回は助っ人なしだ。
オレのキンニクが創った
<一即一切 一切即一>の球形に、
NYシチーがどう反応するのか楽しみである。

明日からは、もう一つのオブジェの仕上げである。
一五〇平米の段ボールと二五〇kgの硝子で創った
<森の奥底>。

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2005-03-23-WED
KUMA
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