クマちゃんからの便り

THE CONNECTED UNITY


去年の晩秋に<金丸座>前に設置した石のオブジェ
<宙にかぶく>、四月から始まる
金比羅大歌舞伎に合わせての除幕式だった。

山のFACTORYに籠もりながらも、
NY個展の制作で慌ただしく過ごしていたオレは
気分転換と、海運を祀っている金比羅八幡宮に
NY行きオブジェの海路運行が順調にいくよう
神頼みもあって高松まで出かけた。

本殿にお参りしてお札をいただいてから、
久しぶりの讃岐うどんを喰い、
温泉に浸かり場末の酒場で一杯やり、
久しぶりの町場の気分だった。

クリストの梱包オブジェのように白幕で覆われた
<宙にかぶく>は、朝から雪混じりの強風のなか
役場のヒト等が、苦労して式の準備で被せたらしい。
バタバタと騒々しく、長い挨拶やらで
いっそう寒い寒波の襲来である。


今にも風が勝手に除幕してしまいそうな勢いを、
紅白の紐がかろうじて押さえてはいるが、
捲れあがってオブジェの全貌はすでに丸見えになっていた。

オレは鉛色の雪雲が千切れる雲間から、
つかの間弱々しくのぞく青空をぼんやり眺めながら、
遊ぶ友もないコトに不満もなく
ただ空を眺めているだけで、
平安を感じていたガキの頃を想いだしていた。
還暦も過ぎてしまったオレは、
雲ひとつない青空より、
分厚い鉛の雲も好ましく思っていた。

物凄い風の早さに渦巻く雲から千切れた雲が、
死の使者が跨る疾走する馬になり、
掲げた旗がはためいて
ユーモラスな髑髏面がこっちを振りむく。
過ぎていき鉛色のカタマリに同化していった。
また新たな馬が走り出す<風の馬>を眺めていた。

何日か前に観た<ジンガロ>を、
季節はずれの寒波の宙に写して観ていたのだ。
しかし寒冷前線の風の馬には体温はなく、
千切れるたびに縁が明るくなり青空が現れては
すぐに鉛色に吸収される様が美しかった。

少し元気を取り戻しFACTORYで制作再開だ。
完成した球形のオブジェのタイトルは、
<THE CONNECTED UNITY>
にした。

<混載>といって他の荷物と一緒くたに送る方法は
安いのだが危険も多い。
NYへは専用のコンテナーに詰めて
送り出すことにしていた。
以前に送ったプレゼンテーションで描いた絵を見た
キュレーターのMorganが、
こっちのオブジェを展示したいと言ってきた。
流石にお目が高いと思ったが、
また<創るのはアーティストの自由だ、
しかし選ぶのは我々だ>ということなのだろう。
オレは最後のひとつを
あっさり新しく創りなおすことにした。
まだ何とか間に合う。

今回の遠征では、スパナー一本と自作のクレーンだけで、
MIKE WEISSギャラリーのなかに
巨大なオブジェ群を再構築してやろう。
アジアの凄腕だぜぃ。

オレにとってのゲージツは、
きっと生きる限りつづく血みどろの闘いのことなのだろう。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2005-03-31-THU
KUMA
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