クマちゃんからの便り

こいつぁ 春から縁起がイイわい


荒行のように過ごしてきたNY行きの
五トンのOBJE制作だった。

最後のひとつ<A SPLIT SECOND>も
いよいよ完成ちかいのだが、
あとはギャラリーで一本二六〇kgの硝子柱を持ち上げ
再構築する工夫をすることだ。

雑誌広告用の新作写真を送れとの
ギャラリーから連絡である。
いつもオレの記録写真を撮ってくれている
写真家の小川由司氏が、急きょ駆けつけてくれた。
村の百姓であり
起重機オペレーター・須田さんのクレーンが、
FACTORYのシャッターからブームの腕を伸ばして
OBJEを吊って外に引っ張り出し、
いつものコトながら見事な腕前で、
アカマツ林のなかに
<THE CONNECTED UNITY>
を連れ出した。
見慣れたFACTORY内にあった時より
錆がイイ感じに輝いている。
ヴェネチア個展の時に考案した、
小さく梱包して輸送、
ボルト・ナットで大きく再構築するこの制作方法である。

<A SPLIT SECOND>は、
段ボール一〇〇枚と
四本で五〇〇kgはある硝子柱で構成されている。
小川氏の撮影は夕方までかかった。
オレもデジカメで撮影した。
休憩していると何やら外で乾いた連続音がした。

「雨だ、須田さんオブジェが濡れる!」

素早い彼の操作で、被害も少なく
FACTORYのなかに取り込んだ。


まだ山岳地帯の冷たい雨だが、
徐々に春の気配で桜開花までもう間もなくだろう。
ぼんやりした頭蓋に、鯛の<乗っ込み>が
そろそろ始まる頃だと思う。
<乗っ込み>というのは、深場の冬籠もりを終えて、
産卵を前に餌をあさりに浅い処へに遡上することだ。
山に籠もってのNY遠征準備に一段落したことだし、
もう海から遠ざかって二ヶ月以上である。
去年ははっきりしたりした<乗っ込み>はなかった。
NY行きを鯛で独り祝いにするか!

下田の<兵助屋>は初めての釣り宿で、
朝、釣り人が六人、どの貌も鯛マニアのような
自信に溢れて出港を待っていた。
引いた番号を釣り座で決めるらしく、
四番を引いたオレは残っていた右のミヨシをとった。
若い船長だが操船は確かだったが、
何とも潮の具合が芳しくない。
何時間かして左の胴間で一枚あげた。
終盤、四号ラインを細い二号に変えた
オレのロッドが大きく引き込まれた。

「よし! 鯛だ!」

細いラインを切られないように、
緩めたドラッグとロッドの溜めでいなしながら
慎重に五分かけて、
2.3kgの見事な鯛を仕留めた。

狙いとおりのNY目出鯛である。
久しぶりの海で、つかの間の気分転換は最高だった。
再構築用のチェーンブロックを使った
簡易クレーンのアイデアを、
山に戻って再現しなくてはなぁ。

クマさんへの激励や感想などを、
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2005-04-07-THU
KUMA
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