クマちゃんからの便り

闇箱を抱えて


とうとう<CONNECTED UNITY>と
<A SPLIT SECOND>のオブジェ梱包が
ニューヨーク港に着いたと、
アメリカの運送会社<SEA&AIR>から連絡が入った。

オレがNY入りする
「6月10日まで倉庫で確実に預かっておき、
 ギャラリーへのオブジェ搬入の時には
 3人の手元を用意するから安心せよ」
とある。
今までスッタモンダしたヨーロッパ遠征とは
大違いに手際がイイじゃないか。

しかし、NYにオレが到着して
オブジェを確認するまで安心はならない。
ましてや、MIKE WEISSギャラリーのなかで
5トンの鉄片をボルトナットで再構築するなぞは、
やっぱしタダ事ではない。
自作のクレーンが無事作動するか、
狭い屋内を1トンの硝子をスムースに移動できるのか。
不安は切りがないが、
その行程すらが極東からのチカラではないか。

いつものコトだが、海を渡った向こうの彼岸では
いつだって予想外が待ち受けているし、
<針孔を通過するヒカリの量は、
 その口径の二乗に正比例している>
という此岸の毎日ですら、
ヒカリはオレの想像を裏切るのである。

頑丈そうな葉巻の木箱が気に入って、
シャッター部分を改良した<針孔闇箱>2号機は、
いっそう軽量化し
4×5サイズのフィルムを装填できるように工作し、
0.29ミリ径の針孔を開けた広角になった。
<f/値が二分の一になると、明るさは4倍になる>。
聞き慣れない光学の世界と戯れている。

ファインダーもなけりゃ露出計もない、
レンズすらなく、
丁度オレの骨が収まる大きさの骨箱に
0.29ミリの虫喰い孔があいた<闇箱>で、
当てずっぽうに撮った最初の一枚に現れた
見慣れた自分の顔の歪みや毛穴の流れに
別のオレを見たし、
背景の露出不足具合の潜む闇に
大いに満足したものだが、データなぞは残ってない。
あの時の記憶にあるヒカリの具合を標準値にして、
自分の目でヒカリの強度を測り、
瞬きのシャッターで暗箱の中へ
ヒカリの世界を取り込んでいるのは、
感覚のサジ加減である。

しかし室内の電灯で撮っては裏切られながら、
ヒトの目が確認する現実から、
ナノ単位の世界まで行き渡る太陽の光に
偉大を感じるのである。
やっぱしこれが<ルシャナのヒカリ>なのか。

オレの暗箱の<f/値>は
露出計には現れないほど暗いが、
測れる最高値を倍数していけば
オレの<f/値>の光量に行きあたるはずだと、
カメラ屋のウインドーの前をウロウロしながら
高価な露出計を眺めているオレだ。
遠征に連れて行くことにした闇箱が、
ニューヨークの乾いた世界の空気を捕らえ、
オレのオートマチックなドローイングが
それを覆っていくだろう。

サハラ砂漠へ遠征して鉄のオブジェを創ったとき、
同行してドキュメントしてくれた室井カメラマンは
NY在住なのだが、挨拶がてらに電話をしたら
留守電になっていた。彼は今日も
<ダコタハウス>に棲みついた
尾白鷲を追っかけているらしい。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2005-05-31-TUE
KUMA
戻る