めざせ復刻!冷水希三子のたずね鍋《完結篇》

料理家の冷水希三子さんが愛用している
身元不明・来歴不詳な揚げ鍋について、
「たずね鍋」と称して捜索願いを出してみたところ、
いやあ、来るわ来るわ、
実にたくさんの目撃情報を、みなさんからいただきました。
どうもありがとうございました。
長らくお待たせしましたが、ようやく結果を報告できます。
冷水さんご愛用の揚げ鍋の正体やいかに?

前編は以下からどうぞ

冷水希三子のたずね鍋

たずねあたった鍋と、ご対面

――
この「たずね鍋」、たいへん反響がありまして、
みなさんにいただいた情報をいろいろ調べた結果、
どうやら身元が判明した気がします。
きょうは、その答え合わせをしてみようということで。
冷水
たのしみ。
つくっているところが分かったんですか?
――
はい、あの揚げ鍋はどうやら、
おもに南部鉄器の製造、卸販売をしていらっしゃる、
「アイアンクラフト」さんの製品のようなんです。
そこで本日は、
アイアンクラフトの及川さんにお越しいただきました。
及川
どうぞよろしくお願いいたします。
(有)南部アイアン・クラフト 及川孝平さん
――
まずは冷水さんの揚げ鍋と、
アイアンクラフトさんの揚鍋をくらべてみましょう。
冷水
どれどれ、じーーーーーーーーーーっ。
及川
じーーーーーーーーーーっ。
冷水
おんなじっぽいですね。
及川
おんなじですね。
――
実は、ちがいがまったくないわけじゃなくて、
ひとつは、冷水さんのは内がわが二本線だけど、
アイアンクラフトさんのは矢印になっています。
また、鍋の裏がわが、冷水さんのは同心円の溝に、
アイアンクラフトさんのはマークになっています。
冷水さんの揚げ鍋(内がわに二本線)アイアンクラフトの揚げ鍋(内がわに矢印)冷水さんの揚げ鍋(裏がわに同心円の溝)アイアンクラフトの揚げ鍋(裏がわにマーク)
及川
この鍋はちょこちょこ改良がされていて、
実はそういう仕様の時代もあったんです。
だから拝見したとき、
「なつかしいな、二本線」と思いました。
二本線も矢印も、油の量を入れる目安なんですが。
――
ああ、じゃあやっぱり、この鍋だという気がしますね。

すくない油でもおいしく、カラッと揚がる鍋

――
アイアンクラフトさんは、この鍋の販売元?
それとも製造元ですか?
及川
販売元です。
――
つくっているところはまた別なんですか?
及川
製造元は、南部鉄器の本場、
盛岡の岩鋳(いわちゅう)さんっていうところです。
冷水
あ、やっぱり南部鉄器だったんですね。
及川
はい、南部鉄器です。
うちの先代社長、つまり、ぼくの父親なんですけど、
その父親の代のときに、
こういう揚げ鍋をつくろうということで、
岩鋳さんとアイアンクラフトで共同企画したものです。
――
ああ、なるほど、そういうご関係なんですね。
及川
アイアンクラフトは2002年に設立したんですが、
その準備もふくめて2001年ぐらいから、
この揚げ鍋の原型になるものをつくりはじめました。
だから、20年近く販売しつづけていることになります。
うちの代表作の1つといっていい鍋です。
冷水
わたしが手に入れたのも、20年くらい前です。
――
もともと、どういうものをつくろうとされたんでしょう?
及川
これ、むかし使っていたチラシなんですが‥‥。
――
「すくない油でもおいしい、使い勝手のいい小ぶりの鍋」
なるほど、そういうコンセプトなんだ。
及川
揚げものをするときは温度変化がすくないほうがいいので、
油を多く入れることで、温度が下がらないようにするのが
わりとスタンダードな方法だと思うんです。
「揚げものは油を使っちゃう」という声に応えて、
「すくない油でカラッと揚げられる鍋を、
このサイズでつくるといいんじゃないか?」
ということで、生まれたものらしいです。
冷水
「お子さんのお弁当に」「お父さんの酒の肴に」。
なんとなく時代を感じて、いいですね(笑)
及川
ちょこっとしたものを揚げるときに使ってください、
っていうことですよね。
実際、この揚げ鍋はヒットして、よく売れています。

冷水さんの鍋は「ご先祖さま」説

冷水
あの、ちょっと気になることが‥‥。
――
なんですか?
冷水
この2つ、微妙に大きさがちがう気が。
ほら、こうしてみると‥‥。
――
あっ、たしかに冷水さんの鍋のほうが大きい。
及川
1cmほど口径がちがいますね。
冷水
アイアンクラフトさんの鍋が、
わたしの鍋にすっぽりおさまります。
――
計ってみると重さもちがいます。
冷水さんの揚げ鍋アイアンクラフトの揚げ鍋
及川
冷水さんの鍋は、もしかしたら、
元の鍋なのかもしれないですね。
――
元の鍋?
冷水
(「元カレ」の発音で)元ナベ?
及川
こういう鋳造製品って、型をとると、
だいたい小さくなるんですよ、元にくらべて。
――
型っていうのは、金型のことですか?
及川
そうです。
ふつう金型をつくる際には、まずモックアップっていうか、
元になるかたちを石膏でつくるんですが、
現物から型をとることもできるんです。
――
それは鍋の場合だったら、
石膏で鍋のかたちをつくるのではなく、
実物の鍋から型をとるということですか。
及川
そうです。
それだと石膏の原型は必要なくなるのですが、
そうやってつくった鍋は、元の鍋よりも小さくなるんです。
石膏で原型をつくる場合はそれを見越して、
実際の製品より大きめにつくるんです。
冷水
あっ、そうか、もしもわたしの鍋を原型にして
金型をおこすと、その金型を使ってできあがった鍋は‥‥。
及川
元の鍋より小さくなるわけです。
――
つまり、冷水さんがお持ちのバージョンを元に、
現在のバージョンをつくった可能性がある、
ということですね。
及川
はい、いま重ねてみたら、すっと入りましたから。
この微妙な大きさのちがいは、
その可能性がありそうだなと思います。
――
冷水さんの鍋は「ご先祖さま」説!

「揚げものレシピ」をつけよう

――
冷水さんの揚げ鍋、ご覧になったかぎりでは、
御社のものと言っちゃっていいでしょうか?
及川
うちの父親も、ちょっともう話はできなくなってるし、
岩鋳に当時いたみなさんも、いなくなっちゃってるので、
断言はできないんですけど、
ここまでいっしょですから、いいんじゃないかと。
――
そうですね、認定しちゃいましょう。
冷水
わあ、たずね鍋がちゃんと見つかった(笑)
――
あのう、素朴な疑問なんですが、
ぼくらが冷水さんに取材したときには、
ネットで検索しても、まったく引っかからなかったんです。
ところが、それからしばらく間があって、
「たずね鍋」の記事が掲載されたころには、
ふつうにAmazonでも売ってたりするようになってて。
まあおかげで情報もたくさんいただけたんですけども、
なんでなんだろうなぁって。
及川
もともとこの揚げ鍋は、
生協にしか卸してなかったんですよ。
――
そういえば生協で見かけたっていう報告を、
けっこういただきました。
及川
最近は別のルートでも卸すようになって、
Amazonやら楽天やらでも販売されるようになりました。
冷水
へえ、そういうことだったんですね。
――
廃番になった製品だとばかり思っていて、
復刻できたらいいなと思ってたんですが‥‥。
冷水
ふつうに売ってた(笑)
――
ただ扱うだけだと、ちょっとつまらないので、
なんか、うちならではのことをしたいですね。
冷水
揚げものレシピとか?
――
あ、レシピ!
それいいですね。
冷水さん考案の「揚げものレシピ」つき。
それでやりませんか?
冷水
はい、いいと思います。
――
揚げものまわりのアイテムも、
冷水さんにセレクトしていただいて、
冷水
ああ、鍋にのせる網とか、揚げもののときに使うお箸とか。
――
そのへんも充実させて、みなさんを
「揚げものの世界」へいざないましょう。
冷水
いいですね、たのしそう。
――
「たずね鍋」、これにて完結です。
及川さん、冷水さん、ありがとうございました!
及川・冷水
ありがとうございました!

前編

冷水希三子のたずね鍋

冷水希三子のたずね鍋

冷水さん愛用の揚げ鍋をさがす旅は、
ここからはじまりました。
その魅力をあますところなく語ります。

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