いいものリレー

5人めのゲスト
塚本 太朗さん(クリエイティブディレクター)
プロローグ東東京の下町で、
ビル一棟をプロデュース。

「いいものリレー」、
tupera tuperaさんのバトンは、
塚本太朗さんにつながりました。
運営する
「riddle design bank(リドルデザインバンク)」では
グラフィックデザインをはじめ、
ショッププロデュース、
インテリア誌などのコーディネートや
オリジナルプロダクトの製作も行うなど
ほんとにいろんなことをしている塚本さん。
輸入雑貨のお店も営まれています。
今回は、東京の下町、鳥越にある
オフィスにおじゃましました。
そこはまるで、おもちゃ箱のような場所です。

ゲストキュレーター塚本 太朗(つかもと たろう)
デザインをはじめ、ブランディングや企画立案などの
ディレクション、イベントのオーガナイズなどを行う。
自分自身で買い付けたドイツやオーストリアの雑貨を
オンラインショップで販売も。

東東京の馬喰町から、鳥越へ

――
今日は、よろしくお願いします。
こちらはいい雰囲気のふるーいビルの
4階にある塚本さんの、オフィスです。
塚本さんのお席はここですか。
塚本
ここです、はい。
すいません、狭くて。
――
いえいえ。もう、まわりのものがぜんぶ面白そうで、
ひとつひとつ見ていったら永遠に終わらないです(笑)。

――
これは‥‥カートっていうのかな、
あ、これってひょっとして飛行機の?
塚本
そうなんですよ。
CAさんが、フライト中に免税品を売るときの。
これには書類を入れています。
カタログとかお取引先の資料とか。
ちょうどこのA4のサイズにぴったりで、
クリアファイルとかがすごい入るんです。
――
どうやって手に入れるんですか?
塚本
これ、オンラインで売っていて。
――
オンラインで、これを?
塚本
使えなくなった飛行機を解体して、
それぞれパーツに分け、座席やカートはもちろん、
まあ、翼もそうですし、窓ガラスだとか。
もうあらゆるものを売っていて。
――
カッコいいですね。
あ、すごい古いシュタイフもありますね。
もう、ほんとにひとつひとつ言ってたら、
キリがないので(笑)、
このオフィスのお話をうかがいましょう。
ここには何年くらいいらっしゃるんですか?
塚本
えーと、2017年からです。
――
じゃあ、もうすぐ5年。
塚本
そうですね。
2007年から2017年まで馬喰町にいたんですよ。
――
アガタ竹澤ビルにいらしたんですね。
古い建物をリノベーションした、
おしゃれな雑居ビルとして知られていて、
馬喰町のカルチャーを牽引したビルですよね。
塚本
そこの3階でした。
――
今は、ミナ・ペルホネンのお店とかも入っていて。
塚本
僕らは第1世代。
今は第4世代らしいです。
――
10年いて、こちらに移ってきたんですね。
そこから移ろうと思ったのは?
塚本
10年で生態系が成熟したから、かなぁ。
もともと、10年で変わろうかなと思ってたんです。
――
あ、もともとそう考えてらっしゃったんですか。
塚本
その10年の間にオリンピックが決まって、
ものすごい開発が始まったんですね、あのあたり。
駅も近いし、ホテルができるようになって、
さらに震災もあったし。
もうとにかく工事の音に悩まされて。
――
騒音ですか。
塚本
工事がひとつ終わるとまたどこかで始まるみたいな。
で、2015年くらいに、
なんとなくですけど、他の場所を探そうと思ったんです。
その頃は、同じ東東京の清澄も蔵前も、にぎやかになってきてて。
今さら蔵前とかも嫌だなと思ってね。気持ち的に。
――
もうすでに盛り上がってるからということ?
塚本
そうです、そうです。
そこに入り込むのもどうかな、とも思って。
なんとなく、ですけどね。

ビルを丸ごとオーガナイズ

塚本
物件を見るのは好きなんで、ずっと探していたら、
この近所のSyuRoっていうお店の店主から、
「鳥越にいい物件あるよ」って聞いて。
それがこの物件だったんですけど、
なんか雰囲気あるなと思っていたら、
1棟貸しだったんですよ(笑)。
――
ありゃ。建物丸ごとの賃貸物件だったんですね。
塚本
1棟はさすがにちょっと払えない。
でも、中を見させてもらったら、いい感じだったんですよね。
それで、「人、集めればいいじゃん」とかって言われて。
イベントで人を集めたり、そういう仕事もしていましたし。
使い道を考えて、プランを立ててみたんですよ。
倉庫だった1階をカフェにできるかな、とか、
2階から上を事務所とシェアオフィスにするなら、
サブリース、いわゆる又貸しが可能なのかとか。
そういう資料を作ってオーナーさんにお見せしたら、
「いいじゃないですか」
「サブリースOKです」って言われて(笑)。
――
意外にスムーズに進んでしまった。
塚本
そうなんです。
オーナーさんは同い年くらいの方で、生まれもこの辺で。
――
こんないい感じの物件は、
なかなか探しても見つからないですよね。
塚本
そうなんですよ!
それで、インフラをどうにかしたりしながら、
1階もカフェにしてもいいとは言われたものの、
なかなかすぐには決まらないから、
とりあえず上だけ埋めようと思って、
いろんな人に声かけて、
たまたまそのとき、江口宏志君が。
――
はい。mitosayaの。
この「いいものリレー」でも、うかがいました。
塚本
彼がまだmitosayaをやる前、
千葉に引っ越してから、
東京にちょこちょこ来てた時期があって。
「部屋使う?」って聞いたら、「使う」って。
一番最初に彼が決めてくれて、
その後は本当に芋づる式に、借りたい、借りたいって。
――
つながりで、どんどん?
塚本
そうですね。
2階は、今もずっとそうなんですけど、
大分の湯布院でやってる、「ジャズ羊羹」さんの東京事務所。
3階が、最初は、革小物のブランドさん。
で、その奥が、このオフィスの家具を作ってくれた
インテリアデザイナー。
――
おもしろい展開。
色んなジャンルの方々が集まってますね。
塚本
4階がうちと、江口くん。
江口くんは、mitosayaがオープンするまでの
2年くらいいてくれたんです。
最初はそれで回していって。
1階のカフェはちょっと時間がかかったんですけど、
とりあえず、ちょこちょこ設備を整えながら、
人を探してたっていう感じですね。
――
そうやって、いい方に出会えたと。
塚本
そうなんです。
――
まったく知らない人同士ではできないような
ご近所付き合いができそうですよね。
そこから楽しいことに広がっていくような。
塚本
そうですね。
その後もほとんど空く期間がなく、
どこで情報を入手したのか、なぜか人づてに、
「空いてないんですか」って来たりとか。
――
じゃあ、今も満室ですか。
塚本
はい、そうですね。
この周辺もお店が増えてきてて、
そこの文具のカキモリさんとか、SyuRoさんとか、
ラッピングペーパー屋さんだったり。
レストランができたり、
コーヒー屋さんもめちゃくちゃ多くて。
――
増えてるんですか。
塚本
はい。ここからはちょっと離れますけど、
もともと渋谷にあった
COFFEECOUNTER NISHIYAさんとか。
――
へえーっ、渋谷から?
「この辺いいぞ」ってなってきてるんですね。
塚本
みたいですね。
――
ここは、エリアとしてはなんていうエリアなんですか?
塚本
「鳥越」です。蔵前じゃないですね。
隣にお祭りが有名な、鳥越神社があります。
やるときは、この辺の路地全部、出店が出るので、
人がもうたくさん来ます。
――
下町ならではのお付き合いみたいなものも、
やっぱりあるんですか。
塚本
あります。
ここのオーナーさんも町会に関わってるので、
お祭りのお神輿にも参加するんです。
――
そういうのもおもしろいですね。
わたしたちも、神保町に移って、
ご近所付き合いもするようになったり、
まだ体験してませんが、お祭りもたのしみで。
下町の良さですね。

ときめくモノが集まって

――
お店は、今はオンラインだけなんですね。
塚本
そうなんです。
たまたまなんですけど、買い付けに行ったのが
2019年が最後で、それからコロナも重なっちゃって。
もうオンラインの方がいいかなと思って。
お店という機能はなくしたんですけど、
たまに声をかけてもらって、
ポップアップイベントや、ショップ・イン・ショップに
入れてもらったりとか。
そういうことは引き続きやってますね。
――
扱っているのは、ヨーロッパ系が多いんですか。
塚本
そうですね。
ドイツとオーストリアですね。
ドイツ語圏に行くので、スイスもたまに。
――
塚本さんは企画はするし、
デザインもされるし、
自分の目で見て選んだものを人に伝えることもしてる。
全部なさってますね(笑)。
ビルの管理までもしてるし(笑)。
塚本
してます。
毎月電気のメーター読んでますから。
――
読んでるんだ(笑)。
すごいいろんなことされてて、おもしろいです。
もともと、雑貨とか、文房具とか、
インテリアがお好きなんですか?
塚本
はい。
小さい頃は、おもちゃ屋さんになりたかったんですよ。
――
ああ、じゃあ、もう叶ってますね(笑)。
塚本
(笑)。
ずーっとばあちゃんに
おもちゃ屋に連れてってもらってたんで、
それの影響がありますね。
生まれは、小岩なんですけど、
小岩の商店街におもちゃ屋さんがあって。1軒だけ。
そこで電車のおもちゃをずーっと眺めてました。
――
超合金とかヒーローものではなく。
塚本
電車、乗り物を集めてました。
――
じゃあ、人生で、
そうやって、おもちゃとか好きなモノを
集め続けてきたってことですよね(笑)。
塚本
そうですね(笑)。
――
集めたものって、どうされてるんですか?
どんどんたまっていきませんか?
塚本
はいはい。
あの、片付けの方面の方が
持ったときにときめかなかったら、
それは捨てていいんです、って言いますよね。
でも、全部ときめいてるんですよね。
――
そうですよ! 無理なんですよ。だって、全部ときめくんですから。
ご自宅はどんな状態ですか?
塚本
できるだけセーブしてますね。
そこは、奥さんの好き嫌いもあったりするんで。
でも、やっぱり、増えてきちゃう。
僕は、買うときはほぼ直感で買うことが多くて、
買い付けも、悩んだりはあんまりしないんですけど。
その中にも、売りたくないものもあるんで、
そういうのはつらいです‥‥。
――
やっぱり(笑)。
塚本
でも、欲しい方とは共感できる部分が多いので、
モノをコミュニケーションツールにして、
お話ができることがありましたね。
――
気があうってことですもんね。
塚本
そうですね。
――
そんな塚本さんが選ばれたモノ、
どんなモノが出てくるか。これから紹介していただきましょう。

(次回へ続きます)