昔秋田犬の雑種を飼っていた。 その犬は、なぜか時々、うまく首輪から抜けて、近所に遊びに行くことがあった。 その都度、私たち家族は、大騒ぎして捜しまわっていたある日、会社からの帰り、もうすぐ家に着くというところで、薄暮のなか、空き地を一匹で悠々と散歩するうちの犬が! 「また抜け出している!」と思った私は、とっさに空き地へ車を乗り入れ、 「龍之介!(犬の名前) 何してんの! 帰るよ! おいで!」と叫んだすると、その犬は、大喜びで私の車の運転席の窓に前足をかけて、今にも車に乗り込んできそうに‥‥しかし、その時気づいた。 全然知らない犬だと‥‥。 うちの犬だと思ったのは、大きさも、毛の色もそっくりな見知らぬ犬だったのだ。 しかし、異常に人懐っこいその犬は、 「なに? なに?」ってな感じで私の次の指示を待っている。 「ご、ごめん。間違えた」 と言ってはみても、相手には通じない。 どうしようと戸惑っていると、その犬はべつの何かに興味をもったのか空き地の反対側へ離れて行った。 その隙を見逃さず、速攻で空き地を去った私であった。 もちろん龍之介は、我が家の犬小屋でお休みでした。
(あの時疑ってごめん 龍之介)
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