[矢沢]
うちの嫁さんがよく言うんだよ。
息子が大学出るころになって、社会に出る準備をはじめるようになったら、あなたは言うべきことがいっぱいあるだろうって。
経験したことがたくさんあるんだから、教えてあげることがいっぱいあるだろうって。
[糸井]
うん、うん。
[矢沢]
そりゃ、あるんだよ。
いっぱいあるんだよ。
もう、一個一個教えてやりたいことがさ。
こういうことがあるぞ、こういうことがあるぞって。
だけど、実際のところは、俺が熱心に10のことを伝えても、本人には2ぐらいしかわからないだろうなと思った。
それはどうしてかといったら、実際に体験したわけじゃないから。
[糸井]
環境も違うしね。
[矢沢]
そう、環境も違うし、リアリティーがないじゃん。
いくら言われても、同じように失敗するかもしれない。
が、ゼロよりはいいかもしれない。
[糸井]
そうだね。
[矢沢]
そう思うんだよね。
俺には、誰も何も言ってくれなかったからね。
[糸井]
あー、それは、重要かもしれない。
永ちゃんは、誰にも教わってないんだ。
[矢沢]
何も教わってないんだよ。
ぼくはいつも、叩かれて、わかって、叩かれて、わかって、そのくり返し。
だから、振り返ってみると、トラブルが多すぎた。
いっつもトラブルがあるの。
[糸井]
「そっち行くな」って、言ってくれる人がいないんだね。
[矢沢]
いない、いない。
自分でやって、こっち行ってバコンって叩かれて、こっち行って、またバコン。
[糸井]
なるほど。
[矢沢]
そういう意味じゃね、じーっと、しとけばよかったの、俺。
[糸井]
(笑)
[矢沢]
じーっとしけば、叩かれることもなかったんだよ。
ところが、じーっとできないじゃん。
[糸井]
しかも、反対する人も、注意する人も、いない。
[矢沢]
‥‥わかった。
だから、俺は変に見られちゃうんだよ。
[糸井]
オレもわかった、いま(笑)。
[矢沢]
だけどさ、そこがやっぱり俺らしいのかな。
[糸井]
思えばなんでもそうだよ。
キャロルの衣装にしたってさ、ビートルズがデビュー前にやっていた、古い時代の衣装じゃないですか。
あの革ジャンにリーゼントっていうスタイルをさ、もしも誰かに相談してたら、
「おまえ、ビートルズはいまそうじゃないだろう、 わざわざ古いの着ることないだろう」って、注意されたかもしれないよ。
「いまは世の中、ヒッピーだぞ」みたいにさ。
[矢沢]
でも、あれはさ、リーゼントと革ジャンだからよかったんだよ。
[糸井]
教えられて、相談したりして、3日じっくり考えたら、あれは、ダメですよ。
[矢沢]
ダメダメダメ。
[糸井]
ぼくがさっきから、
「この話は就職に関係あるよ」
って言ってるのは、そういうことなんだよ。
いまの若い人たちってみんな、いろんなことを覚えすぎたり、教わりすぎて、自分に、がんじがらめになってるんだよ。
[矢沢]
あー、そういうことか。なるほどね。
うん。俺の場合は、いなかったからね。
誰も教えてくれる人がいなかった。なんにも。
それで、叩かれて、叩かれて、傷ついて、傷ついて、やっと覚えてくわけよ。
[糸井]
体験したことだけ、実感したことだけ、身につけて学んでいってたんだね。
(続きます!)
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